第18話 Spring has come(18)
「・・ん。 まあまあ、だな。」
斯波はふっと笑って、そう言った。
「斯波っちの『まあまあ』は、ぜんっぜんOKって意味だもんな~。」
真尋はピアノの蓋を閉めながら笑って言った。
それには斯波は苦笑いをして何も答えなかった。
「おまえも。 志藤さんから離れることは心配だと思うけど、」
斯波は一番気になっていたことを口にした。
真尋が誰よりも志藤を信じ、尊敬してここまでやってきたことは
もちろん本人は言わないけれど
斯波には十分わかっていた。
しかし
「はあ? おれが?」
真尋は思いっきり
心外な顔をした。
「え?」
「べっつに。 最近はずっと斯波っちがやっててくれたし。 志藤さんはたまにここにふら~っと来て、絵梨沙と嬉しそうにくっちゃべって帰るだけじゃん。 関係ないし、」
と膨れっつらをされた。
「真尋・・」
「ほんと。 おれは別に斯波っちが本部長になるから不安とか。 そーゆーの全然ないから。 おれはおれのピアノ弾くだけだし、」
真尋は大きく伸びをした。
全然関係ないわけないだろ。
とつっこみたかったが。
彼の精一杯の強がりのような気がして、ふと微笑んだ。
こう見えて結構
細かいトコ気にしたりするし。
おれが不安そうな顔をしてしまったら
ダメだ。
こいつのために。
そう思っていた時、
「あ、斯波さん。 こんにちわ。 すみません、でかけていて、」
絵梨沙がやって来た。
「ああ、いや。 ちょっと見に来ただけだから・・」
「真尋ったら、ラフマの2番は得意だからって、けっこうサボって遊びに行ったりしてるから・・」
「余計なこと言うなっつーの!!」
真尋は慌てて絵梨沙の口を押さえた。
斯波は笑って、
「まあ、おとなしくしてるとは思わなかったけどな。 おまえも自分ばっか遊んでねーで、たまには家族サービスでもしたら?」
と言った。
「えっ! ちゃんとしてますよ! この前の休みも、絵梨沙ママと箱根にみんなで旅行に行ったし、」
しどろもどろになる真尋がおかしくてまた笑ってしまった。
「あ、そういえば。 栗栖さん、赤ちゃんできたんですって? よかったですね~。」
絵梨沙が言うと、
「えっ・・」
真尋は驚いた。
「私もこの前、南さんに聞いたんですけど。 なんか自分のことのように嬉しくて。 きっと斯波さんならいいお父さんになるんだろうなあって、」
絵梨沙は嬉しそうにそう話すが、
「おい! なんだよっ!」
真尋は不満そうに斯波の肩を叩いた。
「何でそんな大事なことおれに黙ってんだよっ!!」
「べ、別に・・おまえに黙ってたってわけじゃ・・」
斯波は恥ずかしそうにボソボソと言った。
「おい~~! おれに誰も教えてくんないからさあ~~! そんなんわかってたらもうお祝いしちゃったのに~!」
斯波の首がガタガタいうほど揺さぶった。
「・・そうやっていちいち大騒ぎするから真尋には言わないのよ・・」
絵梨沙はため息をついた。
「はあ?? なんだっ! それはっ!」
真尋の手にさらに力が入った。
「そ、そうじゃなくって。 いや、別にあらたまって言うことじゃないし・・」
絵梨沙の言うとおり
いちいちこうやってうるさいから言わなかったのに・・
とはとても言えなかった。
「ちょっと経過悪くて、入院したりしてたもんだから・・」
と言い訳をしてしまった。
「え? 萌ちゃんが? だいじょぶなの?」
真尋は手を緩めた。
「南さんもお見舞いとか行ったみたいなんだけど。今は自宅でお休みされてるんですよね?」
絵梨沙が言った。
「うん・・。 まあ、とうぶん。」
「ほんとに~? そっかあ。 んじゃあ大変なんだあ・・」
真尋はうってかわって腕組みをしてウンウンと頷く。
尚も絵梨沙は
「それに、栗栖さん、志藤さんの秘書に正式になることになって事業部から秘書課に配置換えになるって・・」
と言い出し、
「はあ? なんだソレ!! その方がぜんっぜんあぶねーじゃん!!」
真尋はまた騒ぎ出した。
「だからも~、ほっとけって・・」
斯波はうるさそうに耳を塞いだ。
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