前書 死に逝く少年の独言

 生と死の狭間で脳裏に浮かんだのは幾ら時間を掛けても答えられなかったあの問題だった。


 問1・あなたは一つだけ魔法や異能、それに類推する力を使えるものとします。

    どんな力を使いたいですか。


 これは回答者の性格を図る心理テストなのだけど、問題の本質は次の質問にあるんだ。


 問2・問1で回答した力は自分を含む全ての人間が扱えるものとします。

    その時あなたはどうしますか。自由な発想で答えてみてください。

    また、この質問を受けて使える力を変えたいと思った方はその内容もお答え下さい。


 誰とも言わないし、答え合わせもできないけれど……それでも考えてみて欲しいんだよね。僕みたいなクズの話を聴いてくれる物好き……いや、優しい人なら答えてくれるはずだよ。僕が死ぬこの瞬間まで答えられなかった心理テストをさ……。日常会話の常套句みたいななんでもない質問だけど、本当に答えられなかったんだ……。科学的根拠も何もないこの程度の心理テストを真に受けて真剣に考え込んでしまうあたり、僕の精神年齢が如何に低いか、現実を見ていないかが露呈してしまうのが恥ずかしいな……。とはいっても11年と9ヵ月しか生きてないからそれも仕方のないことなのかもね。


『……参考までにお前の答えが知りたい』


 嬉しいなぁ、進んで僕なんかに興味を持って話し相手になってくれるなんて。こんなフランクな感じに頼られたのは生まれて初めてではないけれど、とにかく嬉しいよ。そんな君の優しさに敬意をこめて、僕も誠心誠意答えなくちゃだね。僕の答えは次の通りだよ。


 問1解・この質問が魔法や異能力、それに類推する力を持ってない人間に向けたものなら、僕には回答権が無い筈です。既に複数の異能が発現している僕に対して、質問の制約とはいえ能力の内容を一つに限定されても困ります。僕は自身の力に対して一定の愛着を持ち満足していたので、この問題に答える必要性は無いと思います。


問2解・僕の能力が世界共通のものになったら間違いなく世界が滅亡します。世界が滅ぶまでは飛躍が過ぎましたが、間違いなく不正や暴力、殺人などの犯罪に利用されます。そうでなければ、僕が死ぬような目に遭うことは無かった筈です。ですが、それはもしもの話、仮構の話であり決して現実にならないことも分かっています。経験も行動も思考回路も判断も、模倣程度で僕の真似をすることなんか出来ない。誰も僕にはなれないんです。だからこそ、僕の後継者が現れないことを願います。


……あれ、僕の答えは以上だけど、どうしたの?

生体継続時間が停止したような、僕みたいな目で見てるけれど……。


『……お前ふざけてるだろ?』


僕はいつでも真面目だよ?

自分が異能持ちの人間だなんて危ない告白は、ふざけて出来るものではないでしょ?

これは僕がずっと隠し続けてきた本心であると同時に、君への自己紹介でもあるんだ。

自明の理ってやつだよ。回答者の隠れた性格を暴くための心理テストなのに、本心で回答できなければその意味を成さない事くらい、僕なんかよりずっと博識な君なら分かるよね。

『…………』

 

……あれ、急に黙っちゃってどうしたの?

……僕の話が気に障ったのなら謝るよ?

 

『右横腹下にナイフが刺さっている理由と救急車で運ばれるに至った経緯を教えて欲しい』


……君も、鬼だね。人が悪いんだね。

……死ぬ直前だってのに嫌なことを思い出させないでくれよ。


……でも折角興味を持って聞いてくれたんだから、僕にも話す義務があると思うんだよね。


……僕はもう死ぬから一から十まで話す余裕は無くなっちゃったけど、簡潔に説明するよ。


……僕は……ね、……を……る……に……

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