第50話 償うは嘘を宿す

 『最後にチャンスをやる。私達の過去をここから戻せ。そうすれば、お前を殺さずここから出してやる』


 「そんな!」


 俺にそんな事出来るわけがない。


 出来てたらとっくに…


 『おい。何、怖気おじけ付いてんだ。出来るんだろ?出来るからこんな事平気で何回もしたんだろ?』


 平気で…したさ。


 直し方もしらずに。


 『なんだと…』


 「…」


 『直し方も知らないくせにやり続けただと』


 「!!」


 『とんだ野郎だな。てめぇ。だから、誰もお前の側にはいないんだよ』


 なに…?


 『可哀想に、誰もお前を助けに来ないな?何故だか分かるか?』


 「……。」


 『消してやったのさ、私が。お前の記憶をな?ニヒッ!』


 「はぁ!?」


 『お前の家族からお前の記憶を消してやった。それに苦しんでいたからな。どうやらお前、家族に暴力を振るっていたらしいな?』


 「ッな!?何故それを!?」


 『なめんなよ。私はお前より数段力が上だ。同じ次元で話をするな、このクズ』


 「ッ!!」


 『私は疑問に思った。小さい時に見た母のアザ。どうしたのって聞いた時、母は記憶にないと言ったんだ。大した傷なのにだ』


 「……母?」


 『あの時はどこかで怪我をしただけなのかと思っていたが、その日一つの鈴を拾ったんだ。綺麗な鈴だったよ。私の手にすっぽり収まった。収まり過ぎた。そして、見えたんだ』


 何が…


 『てめぇがお母さんに手を挙げる姿がなぁ!!』


 「!!!」


 『酷がったよ、それは!聞いたことあるか!?殴られてる人の痛いって叫びが!!』


 そんなこと、言われたって


 『お前の方が何倍も悪魔だ!!頭抱えてる龍也に何度も、何度もっ!!』


 「たつ…や…」

 

 『うるさい!!お前が気安く名前を呼ぶな!いいか?稲妻のように見えたあの景色、それを忘れた自分をどれだけ恨んだか!!』


 「だって…」


 『一時的にイラついて、散々殴り、蹴った後は記憶操作かよ!?それが正しい力の使い方だってかぁ!?一体何を教わってきたんだよ!』


 「なぁ、お母さんって…」


 『黙れ!!何も聞くなっ。何も、何も聞こうとしてこなかったお前がッ気安く口を開くなー!』


 「ッ……」


 『悶えたさ、私は!何度も何度も!泣いて、苦しんで!それでも諦めて!』


 俺は…


 『鈴を握れば蘇ってくる!記憶も憎い感情も怒りも!でも!蘇ったからなんだ!?私に何が出来る!?なぁ!?言ってみろ!』


 この子を…助けてやれないだろうか。


 そっと、手を伸ばした。


 何故か、この子は僕と深い関わりがあるようで…


 「はっ…!」


 手が…手が…


 「透けている…」


 『フッ、そろそろお前の命が尽きるよ。涙が枯れてしまったようだ。細胞の端から端までお前の記憶も感情も消してやった。それでも生きたいか?』


 「俺はッ…死ぬなんて…嫌だ…」


 『チッ!まだ悶えるのかよ。諦めろよ。今ここから目を覚ましてもお前を誰も守らないぞ。裏切りの首を憎しみでぶった斬るッ』


 それでも…俺は…やらなくてはいけない事がある気がするんだ。


 「俺…まだ…」


 『…』


 頼む…君はここから出る方法を知っているんだろ?


 だから、だから!


 「俺はまだ、誰にも謝れていない!!」


 『ハッ…!?』


 「頼む!!俺にチャンスをくれ!!生きるチャンスを!!」


 『……』


 「俺、とんでもないことをしでかしたんだろ!?それを忘れさせないでくれ!償わせてくれ!」


 『ック…!!』


 「君は…僕の…」

 

 『僕……?』


 「娘…なんだろ?」


 『…ツ!!!』


 急に出た言葉に驚いた。この子は俺の子供か…


 『やめろ!?それに何度騙されたか!?その優しさがッ心に残って…』


 追い詰めてしまったこと反省している。


 『いつも…そのせいでッ!』


 あぁ、俺はいい奴だ。

 

 よし…生きれる……!


 「悪かった…だから…元の世界で…謝らせてくれ」


 『ッ!!どうして!!!』


 「!?」


 『どうしていつもそうなんだよ!?どうして!悪者のくせに!!』


 「……」


 『なんで…なんでいつも、良い人ぶんの!?ってか、良い人って思われたいんなら、そうしろよ!?なんで、やっぱりお父さんは良い人だって思った途端、それを裏切るような事するの!?』


 ゴクリ


 空気の塊が喉を通った。


 『お父さん大好きって!言わせろよ!!なんで私達が悪いみたいな目でみんだよ!?そうさせてんのはお前だろうが!!』


 「…」


 『やめろ!?その偽善者面!腹が立つ!限界だ!救っても救ってもお前は裏切る!家族なんかじゃねぇ!!』


 「…そんな…」


 『嘘、つくなよ…今だって、謝りたいなんて思ってないんだろ…』


 バレた…


 「あ、いや…」


 『だよな…。ッフ。呆れた』


 「あ…」


 なんだ、一気に脱力した。


 何も考えられない。


 身体が、重い…


 すると、足の下に渦の様なものが現れた。


 逃れられない…


 魂が吸い込まれそうな重力と、ひんやりと冷たい空気が通る。


 まるで俺の身体に。穴が空いているかのように、その風は俺の中身をすり抜ける。


 「あ…。あ…」


 『終わりだ…』



 



 『あの世へ、この私、紫の華が送る。達者でな…』


 「あっ…。あっ…」


 『直…ひ』







 「すずちゃん!!!」


 『ッ!!!?』


 「……」


 だれ……だ……。


 『この香り…、まさか…!』


 「戻ってきなさい!あなた地獄に落ちたいの!?」


 『止めないで…』


 「いやよ!!あなたは私が絶対守るって決めてるんだからッ!あなたを、不幸にはさせない!!それも死の選択なんてッ…絶対に…絶対に!させないんだからーー!!」


 『…っ!!』


 「げっしょく!!!!」


 「は!!!!!?」


 目の前がパッと明るく開いた!


 「はぁっ!はぁっ!はぁっ!!」


 息が!息が吸える!


 久しぶりに息を吸えたようだ!


 「新月…。」


 バタン


 また、暗い世界に投げ出された。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る