第2話 別にバカでもいい、その方が楽

 物心ついた時から私には自然が話しかけて

くれる声が聞こえた。


 人の言葉のようにはっきり聞こえる時もあれば、そうでない時もある。


 だけど、何となく通じている気がした。


 ある日、家の庭の花に「今日はいい天気だね」って話しかけた。


 何となく花はそうだねっ言ってくれてる気がしたのだが、近くにいた弟に、誰と話しているのかと聞かれた。


 どう見たって花に話しかけているだろうに何でそんな事を聞いたのか分からなかったが、見えていないのかと思い


 「このお花だよ?」って答えたら、弟に花は言葉を話さないよって返されてしまった。


 それは確かにそうなんだけど、分かってはいるのだけれど…でも、花に感情が無いとは

思えなかった。


 「お花、喜んでるように見えない?」


 こんなトンチンカンな質問をする姉に弟は混乱したのか、私の顔を眉間に皺を寄せながら「だいじょうぶ?」と覗ってきた。


 私が変なのか…


 弟だけがそう感じたのかもしれないとその時はあまり本気で悩まなかったが、弟が両親に話した時


 「鈴音は変わってるな」


 「本当に」


 二人ともがフフフと笑っているのを見て、私が異常である事を確信した。

 

 それから、人前では自然と会話をする事を

止めた。


 変人だと思われるからだ。


 だが、口にはしないもののどうしても話しかけてくれてるような気がする時は、心の中で会話したり、独り言と間違われる程度の声量で呟いたりした。


 たまに会話に夢中になり現実を忘れてしまう時がある。


 その様子があまりに遠くを見て黄昏れているようなので、人は私を心配して大丈夫?と声を掛けてくれる。


 何とか誤魔化してその場を乗り切るが夢中に話している時は、つい話してた内容をその人にも言ってしまいそうで、我に返った瞬間ヒヤッとする。


 だけど、少し引っ掛かっているのが、弟がこの話をした時両親は笑っていたが、どこか不安げな表情をしていたような気がしたのだ。


 娘が変な子で病気かもしれないと思ったのかと憶測で片付けはしたが、未だにその時の2人の顔を忘れられない。


 でも確かに娘が本気で自然の声が聞こえるのって言ってきたら頭にハテナが浮かぶか…


 まあ、それも10年以上前の話だ。きっと3人共忘れている。


 あれから私は家族を安心させる為に、普通の女の子を演じてきた。


 自然の声なんて聞こえませーん、馬鹿ですと言わんばかりに鈍感さをアピールした。


 時々両親も溜め息をついていたが、変な子より無邪気な子の方が安心だろう。


 だから馬鹿だなと言われる事には特に傷つかなかった。


 バレていない、逆に安心できた。


 そう、私はお馬鹿さんなのだ。


 子供の時からそんな行動をとり、周りに気づかれないように嘘を付いてきた。


 ここまできてしまえばそれはもう真実になる。


 私は嘘を付いていない事になる。


 過去、そちらの方が嘘となる。


 どこかに生きづらさを感じながらも、私にはそうする事しか出来なかった。

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