14.巫女という人物
「割と謎に包まれているところが多いよね、巫女くん」
「そう?」
「私達三人、巫女くんが居なければ一生出会わなかっただろうし。でも巫女くんは何も語らないから」
車上、本人を交えての謎談義。最近流行りのコンビニスイーツを食べながら、この関係の発起人について話し始めた。
四人は今でこそ友人関係にあるものの、出会った当初はお互い「誰?」と感じていた。それまで一切面識はなく、前触れもなしに巫女くんが引き合わせてきたからだ。
彼女達が名乗ろうとするのを制して巫女くんは言った。
「いいよいいよ。ここだけで通じる名前で呼び合おう。私は『巫女くん』で。巫女……まあ本当は巫女じゃないんだけど、そう呼んでよ」
「面白ー! じゃあギャルだから、ギャルで。安直?」
「地雷女だし地雷ね。SNSの裏垢みたいな名前の付け方じゃない?」
「じら……? えっと……私は……」
その場での勢いで名前を決める巫女くん、ギャルちゃん、地雷ちゃん。自分には何かそのような特徴があっただろうか、と思い返すお嬢の名前を決めたのもまた巫女くんだった。
「お嬢はお嬢でいいんじゃない?」
「あ! ぱっと見お嬢様だと思ってたけどやっぱそう?」
「そんなことはないと思うけど……」
全員社交性は高い方である。呼び方が定まった後は急速に距離を縮め、仲良くなっていった。
それにしても、巫女くんは掴みどころがない人物だった。素性はお嬢が、日常はギャルちゃんが、性格は地雷ちゃんが知っているのに組み合わせても底が見えない。
「なんでもオープンにしている方だと思うけどなあ」
「だからこそなの!」
口を開けっ放しにしていたら虫が入ってくるかな、とまた言い出したのでこれだから分からないんだと三人は呆れた。もし実際に口の中に虫が入って来たらどうするつもりなのだろうか。
「今から不思議ちゃんに改名する?」
「しない。ちゃん呼び多すぎて飽和状態になりそうだしね」
「そういう問題?」
「そういう問題。別に変えてもいいんだけどさ」
日没が遅い夏の陽射しに眩しそうに目を細めながら、巫女くんはからからと笑う。
「少しくらい秘密がある方が、面白いでしょ」
「それはそう」
それでも、気になるものは気になるのだった。
「なんか答えてくれなさそうだしこの話題は終わりで。夏だしプールに行こうよ」
「ウォータースライダーある場所がいい!」
「焼きたくないから室内で」
「注文多いね、君たち」
なんとなく教えてくれそうにもないので、三人は諦めて話題を変え、来週遊びに行く場所について話し合うのだった。
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