4.サイドミラー

「最近車に乗りすぎているかもしれないと感じることがあったんだよ」

「どうしたの?」

前の車を追い越しながら巫女が話題を振った。追い越しの時に確認したサイドミラーで思い出したのだ。


「今朝さ、歩きで人を追い越したんだけど、サイドミラー見ようとした」

ほか三人は暫くなんのことだと考え込んだが、お嬢が曖昧な答えを出す。


「でも、歩いてても後ろが見えたら便利かもしれないね」

「歩行者用サイドミラーとか……」

「横に飛び出しすぎじゃない?」

「サイドミラーを両手に持って……こう……」

真面目に議論を始めかけたが、何を一体話そうとしているんだと四人は軽く笑った。車やバイクのサイドミラーを両手に持って歩く人を想像していたが、随分とシュールな絵面だと思う。


「それって趣味病? 職業病?」

「一応運転手してるし職業病なんじゃないかな。趣味病は聞いたことないけど」

ギャルちゃんが何気なく訊ねたが、聞き慣れない言葉にまた首を捻る一同。車に乗っているイメージが強い巫女くんが普段も左右確認しているのは趣味の影響か職業の影響か。というか


「皆も免許取れば分かるって。曲がり角曲がる度にウィンカー出そうとするよ、きっと」

「そういうものなの?」

「おじさんみたいなこと言わないでよっ」

「免許こわいからとらなーい」

三者三様の答えを背に浴びながら、巫女くんは車を布教しようと更に言葉を続ける。


「車はいいぞ。ちょっと郊外にあるお洒落な店に行きたいってなった時、店の最寄駅はしょぼいローカル線でしかも徒歩30分だったりする。そんな時、車があればあら簡単、時々おかしな道を案内してくるナビに従っていれば楽々で到着だ。問題は税金がやたらとかかるくらいかな」

「大問題じゃない?」

「車持ってる彼氏とか友達と一緒に行けばいいでしょ」

「私は乗ってみたいかも。お父さんが許可してくれたらになるけど……」

ギャルちゃんと地雷ちゃんからは今ひとつな反応が返ってきて若者の車離れを体感する。自身も若者である巫女は自動車の将来を憂いた。お嬢は好意的な反応を返してくれている。


「お嬢のお父さんも何か車乗ってたよね。ベントレーだったっけ?」

「そうそう。他にも何種類かあるんだけど、私は車に詳しくないから」

「お嬢の家最近行ってないな。今度家お邪魔してもいい?」

「もちろん」

巫女とお嬢は幼馴染だ。お嬢は幼稚園からエスカレーターなので学校は一度も被ったことがない。接点は親の付き合いと、同じオーケストラに所属していたくらいだが。

他の二人に悪いので二人だけの会話は早々に切り上げる。

それにしてもお嬢のお父さんの車が気になる巫女だった。

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