主にカレシの事情
椰子草 奈那史
第1話 キャンディ
登場人物
同棲7ヶ月目。
「浩輔ー」
日曜日の午後、ソファに寝そべってテレビをみていた俺の背後から、奈々未の声がした。
振り返ると、奈々未は見慣れないニットのワンピースを着ている。
「ネットで見つけて買っちゃったの。どう? 可愛い?」
「うん、可愛いよ。いいんじゃないか」
再びテレビを見ようとする俺に、奈々未がさらに声を大きくする。
「待って。それだけじゃないよ。こんなのも買っちゃったんだー」
奈々未がスカートの裾をゆっくりとたくし上げると、すらりとした奈々未の下腹部を、極めて薄く、面積の小さな黒い下着が覆っていた。
「素敵だよ、奈々未」
俺はソファから跳び起きると、奈々未を抱えてソファに横たえさせた。
そして、奈々未の下着に手をかけ下ろそうとしたその時――。
バチンっ!
奈々未の張り手が俺の顔面にヒットした。
思いがけないクリーンヒットに、目の前がクラクラする。
奈々未は身体を起こすと、頬を膨らませてまくし立てた。
「もう、どうしてちゃんと見ないですぐ脱がそうとするの!? せっかく浩輔に喜んで欲しくて買ったのに」
俺は「降参」のような仕草で奈々未をなだめながら、奈々未の張り手の射程外まで後退する。
「いや、そうじゃないんだ、奈々未。落ちついてくれ」
そして、姿勢を正して奈々未に向かい合う。
「要するに、それはキャンディのようなものなんだよ」
俺は、極めて真面目な顔をして語りかける。
「――どういうこと?」
「つまりだな。綺麗で可愛い包み紙で包まれたキャンディがあったら、『美味しそう、食べたい!』って思うだろ?」
「まぁ、そうだけど」
「でもな、食べたいのは中身のキャンディであって、包み紙は、開いて剥がすためにあるものさ」
ドヤ顔を決める俺の頬が、もう一回「バチンっ」という音をたてた。
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