第Ⅱ話:「大崩壊」

 ☆★☆




「待ってくれ!」


 少年がベットから跳ね起きる。手を前に伸ばした格好のまま暫し。


「……」


 無言で手を下ろし辺りを見渡す。右・左・上・下を見る。ここが何処かを確認。


「ここって……俺の部屋?」


 そこは自分が暮らしていた部屋。共同住宅の一室。

 自分がいるベッドを含め、折り畳み式の座卓や冷蔵庫、本棚などが置かれている。特に散らかっている事もなく整理整頓された空間。


「何が起こって……」


 首を捻り考える。


(とりあえず一つ一つ見直していこう)


 そう思いベッドから降りて立ち上がる。窓辺に近づきカーテンを開けて外を見る。

 そこは自分が見慣れていた街並みが広がっていた。


「戻って来たのか?いや……まさか……」


 最悪の想像が頭を過る。それは――


(今までの事……全て夢?)


 明晰夢と言うのはあるだろう。だがそれにしては鮮明過ぎる。そして、友人や仲間との出会いや別れが全て『胡蝶の夢』だとは信じたくない。

 そんな考えが堂々巡りしていると――


 ――ドックン!


 強い鼓動が聞こえる。それは彼が手に入れたチカラ――その根源。まるで彼の想像を否定するかのように。


「もしかして……」


 パジャマ代わりに来ているジャージの前を開けて体を確認すると――


「あった……」


 そこにあったのは数多の傷跡。切り傷や刺し傷、火傷痕etc。大小様々な古傷。その中で特に目立つ物がある。

 丁度心臓の位置にある大きな傷跡と臍の上辺りを体を横一周する傷跡。

 鋭利な物が胸部貫通したかのような古傷と体を真っ二つにされたかのような古傷。


「なら……」


 ジャージを上下とも脱ぎパンツ一枚だけになり更に確認をする。

 右腕の二の腕から先と左足の太腿から下の色が違っていた。右腕は色が濃く左足は鋼色をしている。他者の腕や鋼で出来た足をくっつけたかのようになっていた。。

 これらの傷全ては異世界で負ったもの。ならば――


「夢……じゃなかった」


 少年は安心したように息を吐き座り込んでしまう。

 一時は足場から崩れ落ちたかのような衝撃を味わった。

 こんな思いはあまり味わいたくない。


「さて――とりあえず色々確認でもするか」


 そう言ってから少年――シンゲツ=カイは立ち上がった。そして現状の把握を始めた。




 ★★★




 それは突然の出来事だった。

 幾つかの異世界がこの世界(二十世紀後期の地球とよく似た世界)と衝突・融合した。

 原因は未だに不明。諸説ありだが仮説の域を出ない。


 衝突した際に様々な天変地異が起こった。

 不可思議な色のオーロラが空を覆った。

 地震と津波が起こり、熱帯の大雪や砂漠の大雨などの異常気象が起こった。

 更に――とどめに起こったのが次元震動。

 地球全土の空間が震動を起こした。

 原因は世界同士が衝突の果てに融合してしまった結果である。

 そして、地球の全て――環境や生態系、地理など――が一変どころか滅茶苦茶に攪拌され、世界の既存文明は完膚なきまでに破壊されてしまった。


 この世界衝突・融合と文明初期化はまとめて『大崩壊』と呼ばれる。


 そんな絶望的な状況の中、希望もあった。

 それがこの世界に流れ込んで来た異世界の技術や物品。

 これのおかげで文明は元通り――どころか更に発展を果たしたが、ごちゃごちゃとした“闇鍋”のような世界となってしまった。

 余談だが、紀年法は西暦から『統合歴』と呼称されるようになった。


 数ある異世界から流入してきたものの一つに“魔導”がある。……魔術や魔法と言った呼び名もある。魔力というエネルギーを使って神秘的な現象を引き起こし、物理現象を歪めることが可能になり、それらは衣食住やインフラに取り入れられた。

 さらに世界衝突・融合の影響で人類は進化した。西暦の時よりも優れた身体能力を振るう事が出来る者が出現した。……これにより異形となる人も出たがその説明は今回は割愛する。

 そして魔力の生成が可能となり、魔導を実用レベルで使える者――世間一般の魔法使いや魔女だけではなく、前衛や後衛に関わらず、魔術、呪い、錬金術、異能力など一切合切全部含めて魔導士と呼ばれるようになった。……魔導剣士や魔導術士のように個別の派生した呼び方は色々ある。

 そして魔導士は当然のように戦いの道具となった。


 生身の個人など戦況を変える事すら出来なかった西暦時代から、強力な力を持つ一個人すらも戦況を左右する統合歴時代。

 だからこそ魔導を実用レベルで使用できる者や異能力を持つ人々を各国は育成するようになった。その中でやはり才能の差による優劣は出てしまう。

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