【旧作】闇鍋のデカログス
亜亜亜 無常也
序章~プロローグ~
第Ⅰ話:「終わりと始まり」
✝ ✝ ✝
この世とは思えない空間。二人の男女が歩いていた。
男は灰色の少し長めの髪をした黒の眼の中性的な顔立ちをした少年。背丈が少し小柄(160と少し)であり、女装をすれば少女と言っても通るだろう。
女は黒と白のツートンカラーの髪に黒と白の異形の
言葉も交わさず無言で隣り合わせに歩いている。暫くしてどちらからともなく手を伸ばし合い手が繋がれる。普通に繋いでいたがいつのまにか恋人繋ぎになる。そのまま歩いていると――
「なあ」
少年が口を開く。
「うん?」
「色々あったな」
「……そうだね」
二人は今まであったことを思い出す。
楽しい事や嬉しい事もあれば、辛い事や苦しい事もあった。
――喜色満面に喜び、絶叫や咆哮を上げるほどに怒り、滂沱の涙や血涙を流すほど哀しみ、窮地や苦境すらも楽しんだ。
様々な人との出会い。そして別れと死別。
――気のせいか奇人変人、狂人や超人が多い。
様々な相手との数多の激闘、苦闘、死闘、熱闘。
――強敵だらけ。死に掛けた事は両手の指で数えきれない。
そんなことを二人で思い返していると――
「ん?」
少年は前方に人の気配を感じた。そちらを見ると遠くに幾人かの人影が見えた。遠くなので辛うじて輪郭が分かる程度。だが彼には誰かわかる。
「迎えに来てくれたのか!」
嬉しそうに少年は言う。何せ自分はやっと悔いなく逝けたのだから。だからこそ彼女らがいるのはおかしいことではない。
だからこそ早くそこへ行こうとしたのだが――
「アレ?」
足が動かない。一歩も前に進めない。おかしいと思いながら何とか足を進めようとしていると――
「おかしくないよ」
恋人繋ぎされていた手が離れ少女が彼の前にいた。その顔は少し寂しそうであった。
「逝くのは私だけだから」
「な、何を言って……」
呆然とする少年。それはそうだろう。そもそも彼は異世界から迷い込んだ。そして彼は
その言葉に少女は苦笑して告げる。
「それは大丈夫。アレから力を掠め取って置いたから。貴方一人位戻すくらいは大丈夫。御釣りがくる」
「でも俺は……」
「もう片方も大丈夫。だって貴方のチカラ――本質は継承。受け継ぐ事でしょう?」
「……!まさか」
元から察しは悪くないので彼は理解する。
「皆が補強してくれた。だからこそ……」
言葉を止め、右手を前に出しそっと少年を押す。
「貴方は戻って」
その言葉と同時に体が後ろへ下がっていく。ベルトコンベアで下がるように。
「ま、待て――待ってくれ!置いて行かないでくれ!」
少年は手を伸ばし、声の限りに叫ぶ。
「もういいんだ!十分に生きた!悔いはない!」
引き千切れても構わないと手を必死に伸ばす――
「戻っても誰もいない!待っている人なんて誰もいない!だから――俺を連れて行ってくれ!」
声が枯れんばかりに叫ぶ――
だが――
「何おかしな事を言っているのですか?何寝ぼけた事を言っているのですか?まだそんなに生きていないのに。」
先輩の声が聞こえる。
「その言葉は拙者の師匠くらいに生きてから言うべきでござるよ」
悪友の声が聞こえる。
「その言葉はお前にだけは言う筋合いはないよね?……まあ同意するのも癪だけど同感。生きられるなら生きるべきでしょう?」
親友の声が聞こえる。
「わたくし達が死んだのはあくまでも結果です。あなたのせいではありません。それに――悔いなく逝けたのですから気にしないでください」
朋友の声が聞こえる。
「何人も救ってきたんでしょう~?ならきっと大丈夫~」
友達の声が聞こえる。
「悔いがない?そんな訳ないでしょう?貴方には戻ってからやる事があるはずよ?」
盟友の声が聞こえる。
「戻っても一人ぼっち?それならこれから作ればいいのですよ。友人、仲間、家族を」
義姉の声が聞こえる。
「ついでに恋人と愛人、嫁と妾も作りなさい」
団長の声が聞こえる。
「作ってもいいッスけど、作り過ぎはダメッスよ。後ろから刺されるから程々にするッス」
義妹の声が聞こえる。
「人生は苦しく辛いものかもしれません。ですが!楽しいことがきっと待っていますわよ!」
心友の声が聞こえる。
「勝者は生き続けるものだ。そうだろう?お前はまだ負けていない。誰にもな」
宿敵の声が聞こえる。
「前とは違う。チカラがなかったあの頃とはさ。今度はボクらの力があるんだ。だから――何でもできる!何だってやれる!」
戦友の声が聞こえる。
「「「「「「迷わず進め!己の心が赴くままに!」」」」」」
先人達の声が聞こえる。
「だからさ」
相棒――少女が彼女らの言葉を引き継ぐ。全員が言いたい事を。
「貴方は大丈夫。もう何も失わない。皆が……私がいなくてもやっていける。だって――」
泣きそうな顔で笑う。
「貴方は誰よりも強くて、誰よりも優しいのだから。――じゃあね」
別れの挨拶と同時に少年はスピードを上げて後ろに下がっていく。
「いやだ!戻りたくない!ここで俺は死ぬ!止まれ!止まってくれ!」
何とか踏みとどまろうとするがスピードは増すばかり。そして――
「幸せになってね。■■」
その言葉を最後に少年は意識が遠くなり――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます