モブキャラになれなかった私
今日はずっと楽しみにしていた、7月7日の七夕祭り本番です。私が通う堀倉学園付属大では夏季休暇中でして、7月初めから夏休みに入り完全にお休み中です。麻衣沙とは毎日お会いしておりましたけれども、夏季休暇に入ってからは7日ぶりの再会となりますわね。その代わりというように、夏季休暇に入ってから何故か樹さんとは必ず、毎日お会いするようになりまして。…う~む、何この状況……。
夏季休暇に入るまでは、樹さんも岬さんも各々お忙しそうでしたのに、まるで急に忙しさがなくなったというように、毎日必ず1度は…我が家に顔を出しに来られますのよ…。
「あの…お忙しいのでしたら、無理をされてまで…毎日お顔を出されなくとも、いいんですのよ?」
「何を言っているのかな、ルルは。俺のことを心配してくれるのは、凄く嬉しいけれどね、無理をしている訳ではなく、この夏休みを有効に使いたくて、これまでのスケジュールは夏休み分も詰め込んで、熟していただけだよ。俺がルルに会いたくて、会いに来ているというのに、ルルは…俺に会いたくないの?」
「……っ!!………」
無理をされておられるのではないかと、そう思っておりました私は、おずおずと樹さんに申し出まして。それに対し樹さんからのご返答は、彼が私に会いたくて来られているのだと…。夏休み分までされていたとは、無理をされていたのは…寧ろ、今迄でしたのね…。全く気付きませんでしたわ。
それよりも、私が樹さんに会いたくない?…その言葉を聞いた瞬間、私の脳味噌は沸騰するかの如く、ピーピーと湯気を出していたかと思われます。その答えには、ノーなのですもの…。勿論、私も樹さんに…お会いたかったのですわ。漸く私の気持ちが、伝わったのですもの…。あれっ?…彼の気持ちが伝わった…方でしたかしら…。まあ、細かいことは…この際、どうでも良いですわね。
「私も勿論、お会いしたかったですわっ!…本当は…少し、寂しかったのです、私も……。」
まるで子犬がシュンとしたように、目に見えない耳と尻尾が樹さんに見えた気がして、私は恥ずかしいと思いながらも、勇気を振り絞り告白しましたのに…。私の言葉に、満足気ににっこり微笑まれた樹さん。…ああ、やられた~。誘導尋問に引っ掛かってしまいましたわ…。
そういうこともありましたが、今日はあの乙女ゲームの主要キャラが、全員集まる日ですのよ。全員と申しましても、教授とその婚約者さんは来られておりません。去年の暮れに教授と女医の婚約者さんは、無事にご結婚されましたわ。お2人には色々と、感謝も致しておりますが、乙女ゲームとは縁を切りたいとのご意向でしたから、今回もお誘いはしておりません。
「わたくし達のことは、気になさらないでね。皆さんはまだお若いですし、この縁を大事にされたいというお気持ちなのでしょう。ですが、わたくし達は既にいい大人ですので、貴方達お若い人とは考え方も合わないことでしょう。また何かございました時には、こちらも喜んで手をお貸しいたしますわ。ですから、お若い皆さんで交流してくださいね。」
そうやんわりとお断りされておりますのよ。まあ確かに、このメンバーに合わせるのは、教授夫妻の方が大変ですよね…。後もう1人参加されておりませんが、言わなくとも分かりますよね…。まあ、参加出来る状況でも、お誘いは絶対にしませんけれども。私が許しても、他のメンバーは誰1人許さないでしょうし…。
さて、取り敢えず私は樹さんと共に、待ち合わせの駅に向かいました。麻衣沙も岬さんと共に来られるようですし、他の皆さんもカップルで来られる模様ですので、それは別に良いことかと。
「は、初めまして…。あ、あの…わたくし、『
初めてお会いした光条さまのお相手は、とても大人しい雰囲気の地味系女子、ですわね…。う~む、想像通りと申しますか、想像以上と申しますか…。とっても地味な服装と髪型と…お化粧、なんですよね…。しかし、元々のお顔は…可愛い系ではないでしょうか?…う~む、素材が勿体無い…。何故に此処まで、地味系に?
その理由は今、何となく理解出来ましたわ。恥ずかしそうにカミカミでご挨拶されるご様子は、お顔をやや下向きにされ、目線は地面をジッと見つめられ、消え入りそうな小声が更に周辺の音で消えかかり…。シャイ過ぎますわね、これは……。
道理で光条さまが、つい最近まで気が付かれない筈ですわね…。派手系男子は基本的に、明るい性格の活発な女性が好きですものね。…あれっ?…これって、誰かに似てません…???
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「実は彼女も、転生者みたいなんだ。彼女が1人で呟いた言葉が、瑠々華さんと同じ言葉だと気付いて、声を掛けたんだけど…。見ての通り、彼女は物凄く恥ずかしがり屋だから、彼女から君達に声を掛けられないみたいでね…。」
まあっ!…そうなんですのね。私達と同じく転生者ということは、乙女ゲームもご存じだったのかもしれません。早速、そう伺ってみますと、コクンコクンと首を小刻みに振られます。如何やら前世では、このゲームに嵌っておられて、乙女ゲームの麻衣沙が一番の推しキャラだったと、蚊の鳴くような小声で語られましたのよ。わあ~い、此処にも同志が居たっ!
当の麻衣沙は、彼女…悠里さんに上目遣いの目線で見られ、困惑されておられましたわ。悠里さんは恥ずかしいらしく、お顔を真っ赤にされながらも、それでも勇気を出されたようで、下から見上げるような視線となりましたのよ。ですが、そのお姿は何となく誘惑しているような、そんな雰囲気を醸し出されておられて…。
悠里さんの外見は、私よりも背も低く小柄な女性です。その割に泣き黒子があるので、こうやって上目遣いでウルウルされると、色っぽく感じるのです。そうやって見つめられた麻衣沙自身も、今は真っ赤になって、目線を逸らされておられますものね…。こういうのを間近で拝見すると、何となく樹さんのお気持ちも理解出来ますわね…。私もちょっぴり、腹黒くなれそうですわ…。ふふふふふっ……。
今は悠里さんのお話を聞く為、カフェで休憩中ですの。勿論私だけではなく、麻衣沙もエリちゃんも美和ちゃんまでも、興味津々というところです。男女10人もおりますから、男子と女子に分かれて席に座っておりますのよ。男性陣は通路を挟んでおりますから、私達の姿は丸見えでも、声は少々届きにくいようでして。悠里さんと麻衣沙が真っ赤になっている状況に、岬さんと光条さまだけではなく、樹さん達までもがキョトンとされておられます。
先程、光条さまが悠里さんをご紹介してくださる時に、彼女も転生者だと語られましたので、そのことは男性陣もご承知されております。ですから、私達が転生前の前世の出来事や、乙女ゲームの設定について語っておりますことは、分かっておられることでしょう。実際、そういうお話ばかりですし。
その後も色々とお話した結果、彼女は前世のことも、ある程度覚えておられるそうでして、乙女ゲームも相当に遣り込まれておられたようでした。課金も沢山されたそうですわ。…う、羨ましい…。前世の私は課金出来なかったので、隠れキャラも全く見つけられなかったというのに。
何と…悠里さんはエリちゃん同様に、隠しキャラも全部攻略されておられましたのよ。…ううっ、悠里先輩…。それでしたら、お早く教えてくだされば、良かったのに…と、思わずにはいられませんでしたわ。な、何と…彼女は小学校の頃から偶然にも、私達と同じ小学校に通われておられたのです。そう、この堀倉学園に…ずっと通われ…。学年が違いましたので、全く知りませんでしたわ。…ああ、無念でなりません。
「ごめんなさいね…。わたくしがこうも、引っ込み思案なばかりに…。実は前世から、こういう性格でしたの…。ですから前世でも殆ど、お友達がおりませんでしたわ。やっと出来た友人には、自分が嵌った乙女ゲームに引っ張り込んで、ゲームの話ばかりしていました。現世で記憶を持っているのは、自分だけだと思っておりましたし、私はこの乙女ゲームではモブでしたので、皆さんを観察するだけで光栄でしたのよ…。」
「分かります、そのお気持ちはっ!…私もモブでしたら、同じことを思いましたわ。私も、モブが良かったですわ。」
「「「………」」」
悠里さんが語られたお気持ちは、私には十分理解出来ましたのよ。私は引っ込み思案ではありませんが、モブキャラに転生していたならば、きっと拘らずに観察しようと思っていたことでしょうね。…ふう~、モブキャラが羨ましい……。興奮していた私は、勢いよく悠里さんの両手を握り締めます。…ああ。悠里先輩とは、気が合いそうですわね?
「本当は…陰ながら見守るつもりでした。隠しキャラの光条様は前世の私にとって、異性では最も推しキャラでしたもの…。ですから、彼の幸せを間近で見守りたくて、彼のファンの1人として、こっそり他のファンの後ろに隠れていたんです。ところが…つい先日声を掛けられてからは、何故か会う度に彼が声を掛けて来られて、すっかり隠れられなくなってしまい…。本当に、どうしようかと……。」
「「「「………。」」」」
あちゃ~~。光条さまのお気持ち、伝わっておりませんわね…。何となく…身に覚えがあるような、
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前回の七夕に関する話の続き、となりますが…。
今回、新キャラ登場します。今更なんですが…。
今回も、瑠々華視点です。隠しキャラこと光条の恋バナの続きで、その相手となる新キャラ『悠里』が登場しました。
本編では番外編にて名無しでの登場でしたが、番外編集の此方にて初登場となりましたが、光条の婚約者となる女性を、今更になって登場させることとなるとは…。名無しのままでは恋バナも書けない、ということでして。
色々と突っ込みどころのあるキャラですけど、派手系の光条には地味系の女性が落ち着くだろうということで、こういうキャラとなった次第です…。
※今回の七夕に纏わる話は2回でも終わらず、更新が七夕の日を過ぎてしまいますが、後日続きを更新となりますので、ご了承願います。
※読んでいただきまして、ありがとうございました。またまた次回に持ち越しとなりました。よろしくお願い致します。
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