微睡みに耽る

口一 二三四

微睡みに耽る

 一世一代の告白は、貴女の返事を聞いて実を結んだ。

 小学校からの幼馴染。

 私の隣にはいつも貴女がいて、頭一つ分高い私を見上げる笑顔が、狂おしいほどに可愛かった。

 友達であることはもちろんお互いが認め合う親友同士。

 でも本当はそれ以上の、恋人として傍にいてほしかった。

 きっとこれは私だけの感情。

 貴女はそんなこと微塵も考えていない。

 だって私達女同士だから。

 小さい頃から続く関係がそう簡単に変わるわけがないから。

 そう思って、口をつぐんで。言いたいことも言わず悶々と過ごしてきた日々。

 とうとう堪えきれなくなって、奇異の目で見られてもいい。

 この気持ちを抱えたまま今までを続けるくらいなら、いっそ言ってしまおうと言葉にした。

 結果は私の思い描いた通り。

 最高の形で貴女は私の恋人になった。

 実はずっと前から同じ気持ちだったと教えられた時、胸が張り裂けそうなくらい嬉しかった。

 相思相愛だったのならもっと早く言っていればよかった。

 隣で抱え続けていた恋煩いを癒すように、私達はたくさんの思い出を作った。

 春には花見へ出かけ、夏には海で過ごし、秋には紅葉を眺め、冬には雪の道を歩く。

 どれもこれも今までと変わり映えしない行き先だけど、関係性はより親密に。

 友達としてではなく恋人として私は貴女と肩を寄せ合い、時には体を重ね、唇を求め合った。

 月日が経てば経つほど会ってない時間の方が短くなり、ついには同棲も始めた。

 ひとつ屋根の下で暮らすというのはそれだけが特別で、貴女と一緒に過ごす日々がありふれたモノになるのが堪らなく幸せだった。

 二人で選んだソファに座り、二人で贈り合ったマグカップを手にテレビを見る。

 話すでもなくイチャイチャするでもなく、ただ流れていく甘い時間をコーヒーに溶かす砂糖代わりにして。


「……まるで夢みたい」


 ボソリと呟き、これが本当に夢だと気がついた。



 部屋の明かりがフッと消える。

 座っていたソファが闇にまぎれる。

 手にしていたマグカップは内へ内へ。

 淹れていたコーヒーの黒に飲み込まれる。

 そこから闇が広がり全身を覆い。

 助けを求め隣を見ても。

 そこには誰もいなかった。



 意識がハッキリしてからしばらく、部屋の天井をぼんやり眺めていた。

 電気の点いていない室内は暗く不明瞭で、しかしそれに慣れた目にはどこに何があるのかちゃんと映っていた。

 思い返すのはついさっきまで見ていた貴女の顔。

 大好きな幼馴染みから、聞きたかった返事を貰い、過ごしたかった日々を過ごす、なりたかった関係になった夢。

 どうしようもなく身勝手で自分に都合のいい夢。

 だから無性に腹が立った。

 自分が見ている自分の夢なら、せめて満足するまで見させてよ。

 たとえ一夜限りの幸せだとしても、起きれば全部無くなるとしても。

 目覚める間際の間際まで、夢ってことを忘れさせてよ。

 苛立ちが虚しさに変わり自然と瞳から涙がこぼれる。

 それが余計惨めで、誤魔化すつもりで布団を被り直す。

 枕元には寝る寸前まで触っていたスマホ。

 横を向くついでに指を滑らす。

 淡い光で現れるのは、待ち受けにしている私と貴女のツーショット。

 それを遮るメッセージアプリの新着には。


『カレシと仲直りできた! 心配かけてごめんね!』


 今一番見たくない、貴女の幸せが通知されていた。

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