最近思うのは、何か一つでも変化があると場の空気というのはかなり違ってくるということだった。今や、すっかり篠原いじりがなくなり、彼をいじっていたクラスメイト達はどこか大人しいというか、物足りないというか、不機嫌な雰囲気を醸し出していた。

「おい、中川」

 クラスメイトの一人が話かけてくる。

 俺はといえば、日曜以来、頭の中は内藤莉英で埋め尽くされている。今もちょうど彼女に今度の日曜日どうするかとメールを打って送ったところだった。こちらもすっかり、臆することなくメールを送っている。

「何かさ、スカッとすることはないかな?」

「お、誰とメールしているんだよ」

「もしかして、とうとう彼女できたか?」

 ぞろぞろといつものクラスメイト三人が集まる。変わらず、この三人とはあまり絡みたくないと思っていた。本当に一緒にいてストレスしかないのである。それでも仲良くしようとする俺は彼女のいう通り「セコい」男なのかもしれない。それを思い出すとフッと笑ってしまう。

「何笑っているんだよ」

「いや、別に」

「あのさ」

 と、そんな俺たちに莉英がやってきた。

「もしかして、お前の彼女って内藤?」

 莉英はクラスメイトをチラッと見たが無視して話を続ける。

「用があるんだったら、近いんだから直接言ってよ。メールじゃなくて」

「いや、その、学校で会うのは気まずいんじゃないかなって」

「え? どうして? 一応、付き合っているんだからいいじゃない」

「お、おいおい」

 付き合うなどとそれなりのボリュームで話したことに驚いて俺は慌てて立ち上がって周囲を見る。何人かのクラスメイトがこちらを見ている。

「へえ。こういうやつが好みだったのかよ。。。」

 クラスメイトの一人が少し顔を引きつらせる。おろらく、篠原の事件がまだ根に持っているのだろう。

「いや、その俺たちはその、、、」

 こういう場合、どうやって返せば正解かわからなかった。シェア彼女などとは口が裂けてでも言えない。かと言って、彼女ではないと言うと目の前の莉英がどういう反応するだろうか。

 この時、明らかに俺を取りまく周囲の人間環境は変わろうとしていた。

「ねえ。ホントどうでもいいけどさ、こんな奴らと付き合っていて圭君は楽しいの?」

「え?」

「私、圭君にはこの人たちとは合わないと思う。自分でもそう思っているんじゃない?」

「おいおい、なんだよいきなり」

 クラスメイトの人が莉英に詰め寄る。構わず彼女は続ける。

「答えないところを見るとそうなのね。だったら、そんな付き合いやめた方がいいよ」

「おい、中川。そうなのか?」

 今度は俺にも詰め寄られる。

「いや、それは、その」

 そうだよ。莉英の言う通りだ。

「そっか。わかったもういいよ」

 三人は半端な態度を示す俺に愛想をつかして俺の元を離れていった。

「ごめん。つい、思っていることを言っちゃった」

「いや、謝ることないよ。それより、日曜日の件だよな」

 それから俺はクラスメイト三人とカラオケに誘われることはおろか会話をする機会もめっきり減った。前の俺ならそんな状態は絶望的に感じていたが、今の俺はスッキリした気持ちになっていた。

 実は変わり始めたのは周りではなく自分かもしれない。

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