第27話:うぽ

「にゃるほどぉ」

『うぽぽ、うぽぽぴぽぉ』

「ふむふむ。けど毒の苔栽培は、みんなが迷惑するにゃあよ」


 戦意のない茸マンを殺してしまうのは、なんとなく気が咎めてしまって。

 それでミトが茸マンに毒草や苔を育てるのを止めてくれるよう、頼んでみることになった。


「茸マンってうぽうぽ鳴くんだな」

「私も初めて聞いたわ。あと茸マンじゃなくってマッシュマンね」

「似たようなもんじゃないか」


 少し離れた場所でそんな話をしていると、どうやらミトとマッシュマンの話合いが終わったようだ。

 どうしてもぬかるんだ土の上を歩きたくないミトは、俺を見て抱っこをせがむ子供のように手を伸ばす。

 マッシュマンと会話するために岩の上に座らせていたのだけれど、そこまで向かいに行くとピョンと肩に飛び乗る。


「ここで草や苔の栽培は止めてもいいって。別の場所で栽培するからって言ってるにゃ~よ」

「別のって……根本的に栽培そのものを止めて欲しいんだけどなぁ」

「そうねぇ。毒植物じゃなければいいんだけど」

「それは難しいにゃぁ。ここのダンジョンでは、ぽんぽん痛いの治す薬草以外だと、地質的に毒草の方が育ちやすいにゃぁ」


 ダンジョンに地質なんてものがあったのか。


 とにかく庭園のようなものを造りたいマッシュマンは、別に毒草にこだわって栽培しているわけではないらしい。

 このダンジョンで栽培するのに適したものが、たまたまそうだっただけ。


 そして分かったのは、このマッシュマンを倒しても、次のリポップ──つまりダンジョンモンスターは死んでもまた数時間から数日以内にまたダンジョンから産まれるそうなんだけど、そのリポップマッシュマンが同じようにここで庭園作りを始めるだけだってこと。


「モンスターはにゃあ、何も敵は冒険者だけじゃないにゃあ」

「あぁ……モンスターがモンスターを食ってたのは見たよ」

「にゃ~。弱肉強食にゃあ。だから別の階に移動しろうにも、食べられちゃうからここから遠くにはひとりで行けにゃいって」

「そういえばこの辺りにモンスターはいないわね」

「毒苔のせいであまりモンスターが近づかないにゃよ」


 毒苔を栽培することは、自身の身を守ることにも繋がっていたのか。

 ただただひたすら植物を栽培し、育てたいだけのモンスター。そんなのもいるんだな。


「ダンジョンの外はどうなんだ?」


 そう提案すると、マッシュマンの白い肌?が青ざめた。


「ダンジョンで生まれたモンスターは、基本的にはダンジョンからは出たくないにゃ」

「え、なんで? 出たら都合が悪いのか?」

「にゃ~。ダンジョンモンスターはダンジョンの壁から産まれるにゃ。死んでもダンジョンに吸収されて、また産まれてくるにゃよ」

「うんうん」

「でもダンジョンの外で死ねば、もう二度と産まれてこれないにゃ」


 それがマッシュマンには怖いらしい。

 それは他のモンスターも同じで、本能的に避けているんだとか。


「ふぅん、そういうのがあるのか。でもそれだと階層を引っ越すぐらいしか出来ないよなぁ」

「そうねぇ」

「にゃぁ~」

「うぽぉ」


 茸を交えて悩む俺たち。

 階層を移動したところで、結局地質の問題で育てられるのは毒草系か腹痛の薬になる草ぐらい。

 

「ダンジョンからダンジョンに引っ越しできればなぁ」

「そうねぇ。ダンジョンの隣にダンジョンが生成されたなんて話も、聞いたことがないし」

「故意でもない限り、そんなこと起こり得ないにゃよぉ」

「故意かぁ。いやダンジョンってそもそも、誰が作っているんだよって話じゃないか、それ?」


 まぁ神様なんだろうけどさ。

 あ、それとも過去にダンジョン生成スキルをゲットした人間が作ったとかかな?


「ダンジョン生成スキルって、過去にもそれを持っていた人がいるんだろうか?」

「そりゃあいたと思うわ──ああぁぁっ!」

「ど、どうしたんだルーシェ?」


 彼女は俺をじっとみて叫んだ。


「ダンジョン生成! タクミ、あなたのスキルよ!!」

「俺の? フィールドダンジョン生成スキルのことか?」

「そうよ! そのスキルでダンジョンを作って、そこにマッシュマンを住まわせればいいじゃない」


 俺がダンジョンを作って、マッシュマンを……。


「ああぁぁ!?」


 マッシュマンの引っ越し先が決まった。






「正直におっしゃってください! マスター、トーカのことお忘れでしたよね!?」


 地上に戻り、町から離れた場所で生成スキルを使った。

 マッシュマンはまだあのダンジョンの中で、こっちの準備が出来たら引っ越しをして貰わなきゃならない。

 深夜の人通りの少ない時間帯を狙って、布でも被せて急いで地上を移動しようと思っている。

 地上は嫌いだってことだけど、そこは頑張ってもらうしかない。


 で、トーカだ。


「ごめん。新天地に来てわくわくしてたのもあるけおd、ちょっと忘れてた」

「いやあぁぁぁーっ! そこは嘘でも『そんなことないよ。俺はいつでもトーカのことだけを考えているさ』とかいうところじゃないですかぁ!」

「つまりあなたのことは、これっぽっちも考えてないってことよ。ふふふふふふふふ」

「ぷぅーっ!」

「いやいや、まぁまぁ。ごめんってトーカ。とりあえずマッシュマンが暮らせるように、環境を整えてやろう」

「マッシュマン?」


 トーカがきょとんとして俺を見上げた。

 事情を話すと何故か頭を抱える。


「草弄りをさせるためにモンスターを住まわせるなんて、聞いたことないですぅ」

「出来ないのか?」

「いえ、出来ますけどぉ……そうですねぇ、川と小さな森でもあればいいんじゃないでしょうか?」


 川か。あっちのダンジョンでも水場で栽培していたものな。

 小さくても森を作るなら初期サイズのダンジョンだと狭いだろうな。それに川も必要な訳だし。

 

「よし。まずはダンジョンの拡張と、それから森オブジェの設置だな」

「あのぉ、マスター。森のオブジェはないのですぅ」

「え? 川とか山とかあったじゃん!?」

「森オブジェはないですがぁ、木ならいろんな種類があるので」


 もしかして……一本ずつ植えて森を作れっていうことなのか??





***********************************************

マッシュマンに顔があるのかないのか・・・まだ決めていない。

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