第21話:勇者①
時は遡って、タクミが異世界転移を果たした直後から始まる。
「えぇー!? なんてことしてくれるんだよぉ」
グルグル回転し続ける地球儀モドキの前で、輪廻転生神が慌てふためていた。
他の転移希望者たちがざわつく中、こうなった張本人である赤崎は仁王立ちで神を見ていた。
「ボクを必要としている者たちの下へは、いつ行けるのかね?」
「……こうなったのも君のせいだろう! 少しは反省しなよっ」
「え? 何故?」
真顔で彼はそう言った。
反省はおろか、悪びれた様子など微塵も感じさせない。
「君が勝手に世界球を回転させたから、彼の転移座標がずれまくったじゃないか!」
世界球──指定した世界の惑星をミニチュアサイズにしたもので、転移の際に座標を設定するときに使う神様道具の一つ。
タクミが転移した場所は、残念ながらこの世界球ではもう分からなかった。
何故なら高速回転している最中に、転移スイッチを押してしまったからだ。
それもこれも全て赤崎のせいなのだが、彼自身その自覚はないようだ。
輪廻転生を司る神も、転移後の者には干渉できない。それが規則だからだ。
転移先にも別の神がいて、つまりは縄張りを荒らす行為にもなるからというのもある。
(安全な場所に転移しているといいけれど)
少年神がそう心配する頃、まさにタクミはモンスターに追われていた。
(でもまぁ。彼のボーナスなら、きっとなんとかなるだろうね)
そう。輪廻転生の神は知っていた。
彼のボーナスの効果を。
獲得経験値、レベルアップに必要な経験値が全て1になるということを。
それはスキルレベルにも同じ効果を発揮する。
(だけど問題なのはこっちの二人かなぁ)
神が心配するのは赤崎と桃井の二人だった。
赤崎のボーナスは剣聖──使用する剣武器に、聖属性を付与することができる。
彼は思いっきり勘違いしていた。
剣術使いの頂点に立つという、あの剣聖ではないのだ。
(チャラそうだしなぁ、大丈夫かな。それに彼女もだ)
桃井愛奈。
桃井のボーナスは『
それでも桃井にとって、自分の魅力を認められたボーナスだと喜んでいた。
なお、彼女はモデルではなくファッション雑誌の読者モデルだ。しかも二度、紙面に出たことがある程度の。
(転移先の選定は、三人の能力を平均にして決まるんだよね。この二人のボーナスは決して悪い訳じゃないけど、でも朝比奈君が平均値を底上げしていたからなぁ)
素のステータスにしてもそうだ。
赤崎はごく平凡。桃井は平均以下。
対してタクミは幼少期からサッカーを続けていたのもあって、魔力以外が全て平均以上だった。
他にも幼少期から野球少年だった転移希望者も、タクミと似たようなステータスになっている。
つまりスポーツをしていた者とそうでない者とで、ステータス値は差が出てがあるのだ
魔力に関しては、魔法の存在しない世界なのでだいたい全員似たり寄ったりな数字になっていた。
(朝比奈君無しで、果たしてこの二人が世界の問題を解決して……ん? これなら……平気かも?)
輪廻転生の神は、既にタクミが転移した世界の事情に触れた。
彼らを必要としたのは世界ではなく、勇者召喚魔法を唱えた者たちだった。
(特に魔王退治の依頼でも、邪神封印の依頼でもないし……うん、まぁいいか。失敗しても世界の命運に関わることもないし、せいぜいあの二人がお尋ね者になる程度だね)
「座標の再設定が終わったから、二人ともさっさと転移してくれる? 残りの人たちが待っているんだからさ」
「フッ。遂にボクが勇者として召喚される時が来たのか」
「いいからさっさと行きなよ」
頭を抱えた神の隣で、赤崎と桃井が順番に異世界へと転移した。
「おぉ! 成功だ、召喚術の成功だぞ!」
「お二人か!?」
赤崎と桃井が転移したのは、とある王国の謁見の間であった。
桃井はファンタジー小説や漫画に疎く、状況が呑み込めずにいる。だが赤崎は違った。
(勇者だ。まさに今、ボクは勇者になった!)
「こほんっ。突然この世界に招いたことには詫びよう。だが我らはそなたらの力を必要としておる」
「フッ。みなまで言う必要はありません。ボクは勇者。この世界を魔王の手から救うためにやって来た、勇者なのですから!」
高らかに宣言した赤崎は、自分に酔いしれ恍惚とした表情を浮かべていた。
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