第16話:海よぉ
「外に出なくても、ここでレベルアップすればいいのです!」
とトーカが言った。
つまりここにモンスターを召喚して、そいつを倒せってことらしい。
「モンスターならここを出れば──」
「安全にレベルを上げられるのですよぉ」
「だけどモンスターの召喚ってDPが必要だって、さっき言っていたよね?」
「一種類だけDP0で召喚出来るモンスターがいるのです」
まるでお試しモンスターみたいだな。
となりで話を聞いていたルーシェが、「あ」と短く声を上げた。
「もしかして水色スライムかしら? 最弱と言われるモンスターよ」
「ぐぬ……と、とにかく召喚はトーカのお役目です。マスターはさっさとレベルを下げちゃってくださいっ」
「わ、分かった」
「
「ふんぬぅー!」
レベルを下げろと言ったのはトーカだし、その方法はレベルドレインしかない。
何故かルーシェはドヤ顔で、トーカは怒っている。
俺はいったいどうすればいいんだろう。
レベルは結局5まで下げた。経験値のことを考えれば1で無くてもいい。
短剣を構えて待っていると、トーカが「えい!」と言って右手を振り下ろした。
その右手の指さす先で、すぅーっと水色スライムが十匹登場。
「あれ? 透明じゃないのか」
「はい。こいつだけなんですよぉ、半透明じゃないの。めちゃくちゃ弱いですが、スキルレベルを2、3上げるぐらいには役立ちますからぁ」
レベルが1なら、スキルレベル11までは上げられるな。
十匹の水色スライムを踏みつけ、あっさりとレベル11に。
つまりスキルレベルを上げるのに必要なEXPも1だったわけだ。
「あ、スキルじゃない方のベースレベルは5のままだから、もしかしてずっとレベル上げできるのか。トーカ、追加。何十匹でも出してくれ」
「あ、はい。でも同じ種族のモンスターですと、同時に召喚出来るのは十匹までなのです。それにレベル2に上げるに必要な経験値は50ですぅ。水色スライムは経験値1ですので、50匹倒さなきゃなりませんからぁ、ゆっくり行きましょう」
「いや、もう11だから」
「え?」
追加の十匹を倒して、フィールドダンジョン生成スキルは21になった。
獲得DP1万っと──。
「トーカ、DPが1万溜まったんだけど、これで牧場とか作れるか?」
「牧場のオブジェはありませんねぇ……え? 1万、ですか?」
「あぁ。今スキルレベル21だから、1万だ」
トーカが固まった。
十秒ぐらいして、「ええぇぇぇーっ!」っと叫び出した。
「な、なんでレベル21なんですぅ!? なんで1万もDPがあるんですぅーっ。あ、本当に1万DPあるしぃぃーっ」
「ふふ。だからあんたはタクミのことを知らないって言ったのよ」
「ぷぅーっ。この魔族、ムカつきますぅー」
「いいから仲良くしてくれ……」
魔族と精霊って、犬猿の仲なのか?
とにかくDPだ。
出来ることを把握して、その上でスキルを今後使うか使わないか決めよう。
「DPを使って出来るのは、階層の拡張、及びオブジェの設置。オブジェはこんな感じですぅ」
そう言ってトーカが可視化されたホログラムディスプレイみたいなものを浮かび上がらせた。
「いろいろあるのね」
「ルーシェにも見えるのか。どれどれ」
「あ、屋敷なんてのもあるわよ」
「へぇ。大中小ってあるのか。ん、なんだこの廃村って」
ルーシェと二人、カタログショッピングのノリで一覧を見た。
するとトーカが俺たち二人の間に体を突っ込んできて、無理やり入って来る。
「この廃村と言うのは──」
「んもうっ、狭いじゃない」
「廃村と言うのはそのまんまの意味ですぅ。ぼろぼろの家が数軒だけの、今にもアンデッドモンスターが出そうな雰囲気を出せるのですよ」
そんな雰囲気いらないから。
じゃあこの屋敷っていうのもそうなのか?
「もちろんそうですよ。こっちはアンデッドの中でも、ゴーストやレイス向けですね」
とのこと。
ロクでもない……。
しかしいろいろあるなぁ。山、川、湖。そして海なんてのもある。
海に囲まれた小島の中にあるダンジョン内の……海……。しゃれにもなりゃしない。
だけど、
「凝った景色も作れそうだな」
「はい! なんでしたらどこかの階層ぐらいは、マスタールームとしてお使いになるのもいいかと」
「マスタールーム……ダンジョンに住むってことか」
「あー、いえ住むというか。ダンジョン管理専門階層にして、お仕事中お寛ぎできるように景観を──」
「住めるのか、ダンジョンに!」
俺は辺りを見た。
この草原を拡張して、頂が雪に覆われた山を配置。その手前には透明度の高い湖があって──湖のほとりにあるログハウスなんていいな。
いや、海沿いのロッジなんてのもいいな。
なんだったら階層ごとに異なる景色を作って、観光気分を味わうってことも出来そうだ。
ただ問題は、島に生成したダンジョンで、実質どうやって暮らすかだなぁ。
店もないし、他に人もいない。
食料になるモンスターがいると言っても、このダンジョンで見つかったのは肉になるモンスターだけだ。
島の周りで手に入るとしたら、魚と、あとは海藻ぐらい?
そんな貧しい食生活は嫌だ!
「あ、あの、マスター?」
「タクミ……ダンジョンに住む気なの?」
「まぁ楽しそうではあるんだけど、この島じゃねぇ……」
「そうよねぇ」
俺とルーシェの二人でため息を吐くと、トーカは首を傾げていた。
そこで彼女を連れて生成ダンジョンを出て、更にダンジョンを出て──
「う、海ですわあぁぁぁぁぁーっ!」
と、トーカが叫ぶのを頷きながら見守った。
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