第6話:呪い
「腕力は力の事よ。これが高いと、重いものも持てるわ。武器を使った攻撃でも、腕力が高ければ高いほど、より大きなダメージを与えられる」
この世界のステータスが、それぞれ何に影響を及ぼすのか。
それを知るためにルーシェからいろいろ教えてもらうことにした。
「思った通りだな」
「あら、ある程度は理解できるのね。じゃあ次、体力よ」
体力も重い物を持ち上げるのに関係するらしい。分かりやすいのは、鎧のように重い物を着て普通に動けるかどうかってこと。
それと持久力だ。どのくらい長距離を走れるかとか、そんな感じ。
「俊敏は、反射速度や瞬発力に関係するの」
「逃げ足の速さとかも?」
「ぷふっ、その通りよ。次は器用ね。これは手先の器用さとかもあるけど、戦闘面だと攻撃の命中率かしら」
ネットゲームで言うDEXみたいなものか。
「最後は魔力。魔法を使うのに必要なステータスよ。これが低いと魔法が使えないの」
「どのくらい必要なんだ?」
「下級魔法の発動でも、25は必要かしら」
全然足りてねー。
「25ぐらいじゃあ、倒せるのはスライム程度だけどね。あ、スライムは見た?」
「見たよ。あいつらのおかげで、レベル17まで上げられたんだ」
「そんなに上げたの!? いったい何百匹倒したのよ……」
「いや、四十ぐらいだけど」
「は?」
あ、ボーナスの話はしてないんだった。黙ってても都合が悪くなるだろうし、話しておくか。
「実は異世界転移ボーナスで、獲得経験値とレベルアップに必要な経験値が、揃って1になるってのを貰ったんだ」
「……え?」
「いやだから、全ての経験値が1になるっていう、なかなか良いボーナスをね」
「待って。じゃあなに? あんたはスライム一匹倒したら、レベルが上がるって言うの!?」
「つまりはそういうこと、だと思う」
ルーシェがこめかみを抑えて大きなため息を吐いた。
あ、肩をふるふる震わせ始めた。
そ、そうだよな。ちょっと信じられない効果だよな。
頑張ってる異世界人に、申し訳ない気がしてきた。
だってこれって、チートみたいなもんじゃん。
「ふ、ふふ。なんてことなの……」
「ル、ルーシェ」
彼女の震えが止まった。
そして立ち上がると、俺を見下ろして不敵な笑みを浮かべた。
「ふふ……見つけたわ……見つけた。あんたは私にとって、最高のパートナーよ!」
パ、パートナー?
「私が旅をしている理由、それはね……呪いを解くためなの」
「呪い?」
ルーシェは頷き、その呪いについて話してくれた。
「気づいてた? 私、あんたと違って人間じゃないって」
「あ……う、うん。その、耳が……」
「でしょ? 私はね、魔族という種族なの。魔力に長けた種族なのよ」
魔族……この世界ではどうなのか知らないが、一瞬、人間と敵対している種族なのかなと勘違いしそうだな。
だけど単純に魔力特化の種族らしい。
そんな彼女が何故呪いなんかに。
「が、学園でね……あ、新しい魔術の研究課題があったのよ。それで、誰も知らない魔術を発見してやろうと思って──」
「なんでその流れで呪われるんだ」
「き、禁書をうっかり開いちゃったのよ!」
……あぁー。その禁書は、開くと呪われるって奴ですねぇ。
はいはい。
「その呪いは、魔法を使うたびにレベルが下がるってもので……私、禁書を開いたから学園からも退学させられちゃうし、呪いでどんどんレベル下がっちゃうし」
「うっかりって、禁書だと知らずに開いたってことじゃないのかい?」
「そうよっ。だって普通の本棚にあったんですもの。裏表紙に禁書を示す印があったけど、まさかそこに禁書があるとは思わなくて……」
ふぅん。もしかすると、誰かに嫌がらせでもされたのかもしれないな。
それで彼女は呪いを解く方法を探して、旅にでたということらしい。
それにしても、パートナーと呪いがどう関係するのだろうか?
「君がさっき言っていた、俺が最高のパートナーってのは?」
「ふふ。えぇ、最高のパートナーよ! だってあんた、適正レベルのモンスター一匹倒せば絶対にレベルが上がるんでしょ?」
「あ、ああ。さっきまでそうやってレベルを上げていたから、確かだ」
そう答えると、ルーシェは俺の傍に来てこちらを観察しはじめた。
お、女の子にじろじろ見られるのって、なんか恥ずかしいな。
「悪く……ないわね。むしろ──かも」
「え? 悪くないって、なにがだい?」
「こ、こっちの話よ! パートナーっていうか、契約者のことなの」
「契約者?」
ルーシェは頷き、魔導書を開いたときに受けた呪いには、まだ続きがあると話す。
「呪いにはもう一つ、セットスキルがあるの」
「セットスキル?」
「そう。レベルドレインよ」
なんか聞いたことのあるスキルだな。
レイスとか、ゴースト系モンスターがそういうのを使うっていうゲームがあったはず。
「相手のレベルを吸い取って、自分のレベルにすることができる効果よ」
「そのスキルを使うのに、契約する必要があるっていうのか」
「違うわ。そのスキルを使う対象にするために、契約が必要なの」
「じゃあ、契約した相手以外からは吸い取れないってことか」
「そういうこと」
だからこその呪いなのだと、彼女は寂し気に言った。
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