第3話:レベルアップ

 この温もりはいったい?

 まさかスライムの特殊攻撃か何かを食らったのか?

 だったらマズいぞ。すぐにステータスを確認しなきゃ。



 レベル2   MP:35/35

 腕力:30  体力:39  俊敏:32

 持久:28  器用:35  魔力:7


 StP:1


【転移ボーナス】

 EXPが1になる


【スキル】



 特に状態異常の表示はない。だったらあれはいったいなんだ……ん?

 浮かび上がったウィンドウの一点をじっと見つめる。


 そこには確かに、


 レベル2


 とあった。


「は? レベルが上がってる?」


 え、俺の獲得経験値って、1なんじゃ?

 もしかしてレベル1から2に上げるのに必要な経験値が、1しかなかったとか?


 ま、まぁそういう可能性だってあるよな。

 で、次のレベル3に上げるのに必要なのが、経験値5とか10とか、そんなもんだったりして。


「スライムは楽に倒せる。今ここで稼いで、なんとかレベル3に上げよう」


 トカゲの死体を食べるのに夢中になっている奴らを、どんどん傘で潰して行く。

 潰すたびに体が温まる気がするけど、さっきのレベルアップの余韻だろう。


 途中から体のほてりもなくなり、やがて食料が尽きたスライムたちが天井にあった小さな穴へと入っていった。

 あんなところから出て来たのか、スライムは。

 この部屋には──ないな。


 通路にあったトカゲの屍も、綺麗に片付いて肉片一つ残っていなかった。

 





「で、なんでこんなことになっているんだ」


 ひと段落してステータスを確認すると、信じられない数字がそこにあった。



 レベル15   MP:35/35

 腕力:30  体力:39  俊敏:32

 持久:28  器用:35  魔力:7


 StP:15


【転移ボーナス】

 EXPが1になる


【スキル】



 何故レベルが15に!?

 え、この世界ってレベル上げ楽勝なの?

 必要経験値一桁ですかそうですか?


 俺、どのくらいスライム倒した?

 三十匹ぐらいかなって思ってたんだけど、え、じゃあ必要経験値2ぐらい?


 StPっていうのはステータスポイントのことだろうな。

 さて、何に振るか。


 体力が一番高いが、持久が少し低めだな。字のままの意味なら、長く走るならこれは高い方がいいんだろう。

 ダンジョンを脱出するという点だけに特化させるなら、持久一択でもいいかもしれない。


 が、全振りはあとで後悔することになるかもしれないし、今は10だけ振っておこう。


 ここを拠点に、スライムを潰して回るか。

 必要経験値を調べるために、一匹倒してはステータスを確認……すると、レベルは上がっていない。


 スライムには二種類いて、ピンクの奴と水色の奴がいた。

 水色の数は少なく、ようやく見つけたそいつを倒すとレベルが上がった。

 じゃあ続けてもう一匹、水色だ──と思ったら、レベルが上がった。


 水色の経験値が多いのか?


 いや、そんなはずはない。

 だって獲得経験値は1しかない、そういうボーナスじゃないか。むしろ呪いみたいな──。


「ボーナス……ボーナスなんだよな? もしかして──」


 EXPが1になる。


 まさか、モンスターを倒して得られる経験値も、レベルアップに必要な経験値も……。


 全部1になっているのか!?


 ピンクを倒してレベルが上がらないのは、奴と俺とのレベル差が開いたとかそんなのだろうか。

 ネットゲームってそういうシステムなのもあるし。

 じゃあ狙うは水色のみ!

 

 ──と思ったけれど、スライムがまったく見つからない。

 部屋を出て少し熱き回ってみたけれど全然ダメだ。やっぱり死体がないとダメなのかな。

 そうこうするうちに上へと続く階段を見つけた。


 やった! これで外に──じゃなくって上の階に上っただけね。

 まぁそうだよね。そう簡単に出れる訳ないよな。


 なんどもモンスターに追いかけられ、下の階と同じ安全な部屋を見つけては休み……。

 階段を二つ上ってようやく地上にたどり着いた。


「なのになんだよここは!?」


 ダンジョンがあったのは──島だった。

 しかも小さい。

 

 地面にぽっかり空いたダンジョンの入口から100メートルも歩けば海。右も左も、そして後ろもほんな感じで、草生一本生えていない。


「はは……俺の人生を現すかのような空模様じゃないか」


 大粒の雨が降りしきり、風が強く、海も大荒れだ。

 これじゃあダンジョン内のほうがまだマシだな。天候が回復するまで地下にいよう。


 ダンジョンに戻ろうと踵を返したところで、さっきまで背を向けていた方角の海に光る物を見つけた。


 船か?


「お、おぉーい!」


 気づいてくれ。気づい……あれ?


 小さな明かりに照らされて見えたのは、船は船でも……小型ボート!?

 しかも半壊してる。


「ってかあっちの方がヤバいじゃん!」


 誰か乗っているのか?

 じぃーっと目を凝らすと、ボートの縁にしがみつく人影が見えた。

 

 ボートは島から百数十メートルの所。だけど波が荒い上にボートは既に壊れている。

 いつ沈没するか……


 あの人……生きているのかな。

 まだ生きていたとして……沈んだらどうなる?


 苦しかった。

 暗くて恐ろしかった。


 川の底でもがき、苦しんで……必死に伸ばした手は、誰にも届かなく。

 死を直に感じたあんな恐ろしい思い、二度としたくない。

 

 きっとあの船に乗っている人だって。


 ……。


「あぁくっそ!」


 俺はバカだ。

 俺は大バカだ!


 大バカな俺は、気づけば海に飛び込んでいた。






「がはぁーっ、はぁ、はぁ、はぁ」


 火事場の馬鹿力っていうのかな。


 振り返って海を見たけど、俺……よく生きて泳いで戻って来たよ。まぁボートは海の藻屑になったけどさ。


「はぁ、はぁ。とにかくこの子を安全な場所で休ませなきゃな」


 ボートに乗っていたのは女の子で、やっぱり気を失っていた。

 体が冷え切っているようだし、温めなきゃならないんだろうけど。


「そういや地下一階のダンジョンに、切り株のオバケみたいなのがいたな」


 レベル15で倒せればいいけど……とにかくダンジョンに下りよう。

 ここにいたら雨に濡れて、ますます冷えるだけだ。


 彼女を抱えてダンジョンへと引き返す。出来れば安全な部屋まで行きたいが、ここからじゃ遠いんだよな。

 階段じゃあ上から流れてくる雨水が……雨水が流れてきていない?

 途中の階段に雨水が全部吸い込まれているんだな。


 じゃあ彼女をここに寝かせてっと。


「ふぅ……ん、この子……」


 ほんのりと明るいダンジョンまで来て分かったが、この子……

 銀色の髪から覗いている耳が、尖ってる。


 でもよく見るエルフのイラストなんかと比べると短い。

 

 顔に張り付いて髪を除けてやろうと手を伸ばすと、彼女の眉がピクリと動いた。


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