異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
第1話:溺死からの転移
「それじゃあ異世界転移を選んだ君たちには、ボーナスクジを引いて貰うね」
見た目は子供、頭脳は神様──じゃなく、輪廻転生を司るという子供の姿をした神様がそう言った。
その神様が穴の空いた箱を持って俺たちの所へとやってくる。
二十歳前後の男が嬉々として一番にクジを引くと、よく見る三角に折られた紙を箱から取り出していた。
本当にクジなのか!
最後となった俺の所に神様がやってくると、彼は箱を軽く振って差し出した。
「君も不運だったねぇ。事故に巻き込まれてバスと一緒に川に転落しちゃうなんて。はい、どうぞ」
「どうも……」
そう。俺は川に落ちて溺れ死んだ。
大学に向かう途中で、橋の上の歩道を歩いていたら事故ったバスが突っ込んできて……。
泳ぎは得意だったけど、足がバスの車体に挟まって動けなかったんだ。
死因は溺死。
ここにいる全員がそうだ。
違うのは俺以外全員、あのバスの乗客だった人たち。
転生か異世界転移か選んで欲しい──と神様は言った。
「ほんと、ごめんねー。転生希望者が多くて、順番待ちが百五十年以上あるんだよぉ。その分君たちには、転移ボーナスをあげるから」
「転生って、異世界転生も含まれるんですか?」
誰かがそう質問した。
神様は苦笑いを浮かべ、その質問に答える。
「うん、そうだよー。でも異世界転生は書類審査が難しくてね。それだけで十年掛かっちゃうんだ」
神様の世界もお役所仕事なのか……。
異世界転移はボーナス付。だけど姿年齢性別はそのまま異世界に行くことになる。
バスの乗客のうち、半数以上は転生を望んで死後の世界へと旅立った。
ここに残っているのは俺みたいな十代、二十代ばかりだ。
「全員クジを引いたね? じゃあこれから君たちは、能力値、今引いたボーナスを考慮して自動的にグループ分けされるよぉ」
「え、自動?」
そう思ったら俺の胸から白い光が出て、それが二本の線となって二人の人物と繋がった。
二十歳前後の男女二人だ。
「君たちがボクのグループか。よろしく、ボクは赤崎颯太、二十歳だ」
「桃井愛奈、雑誌のモデルでぇーす」
「朝比奈 拓海」
「朝比奈君か、あの自転車は」
「キャハー。ほんっとタイミング悪かったわねぇ。かわいそう」
同じ溺死人にかわいそうとか言われてもなぁ。
「君たちを必要とする世界があれば、そこに行くも良し。そうじゃなければランダムで転移だけどどうする?」
「ボクを必要とする世界で!」
神様の質問に、赤崎が即答した。
いや、勝手に決めるなよ。個人で自由に選べるならいいけど、グループ単位なんだろう?
「ボクを必要とする世界──つまりその世界では勇者になれるということ、だよね?」
「んー、まぁそうだね。そうなれるかどうかは、転移後の君たち次第なんだけどさ。ま、揃って動くもよし、個人で別行動もよし。強制はしないし、させないようにね」
「もちろんだとも! そしてボクは勇者に相応しいボーナスを獲得している」
「え? なになに、赤崎君ってどんなボーナスだったの?」
俺もそれは気になる。豪語するだけの能力なのか?
ってかボーナスってどうやって確認するんだよ。
「あ、クジ開いてね。能力値の確認も、それを開けば自動的に分かる仕組みにしてあるんだ」
「すみません、ありがとうございます」
「ううん、僕のほうこそ伝え忘れてたから「剣聖だ!」」
神様の言葉は最後まで聞こえなかった。あの赤崎が大きな声で自分のボーナスを公表したからだ。
剣聖って、ファンタジー小説なんかではよく目にするけど……まさか最強の剣の使い手的な?
「ボクは全ての剣の使い手の頂点に立つ男。つまり勇者でしょう!」
「赤崎君、ステキね!」
本当に剣聖なのか。けど……。
あんなのと同じグループに分けられるのは……出来れば別行動をとりたいな。
さて、俺のボーナスはなんだろう?
三角に折られた紙は糊付けされていて、それを開くとホログラムのようなウィンドウが現れた。
そこには──
【EXPが1になる】
と書かれていた。
「EXPがって……まさか獲得経験値が1しか貰えないってことか?」
ホログラムパネルを操作して、台座の上にある黒い地球儀をゆっくり回転させていた神様にそう尋ねると、彼は振り向いてにっこり笑った。
「うん、そだねー。でも「なにいぃぃぃ!? あ、朝比奈君、君のボーナスは獲得経験値が1になるものなのか!?」
だからそうだって言っただろ。神様のお墨付きもあるぞ。
いや……でもこれってボーナスなのか?
周囲から俺を……いや、赤崎と桃井さんに対して同情の視線が向けられる。
「あー、さっそく君たちを必要とする世界が検索にヒットしたみたいだけど、どうする? 君たちには馴染みのある、ゲームのような世界だよ」
黒い地球儀を弄っていた神様がそう言った。
すぐに反応したのはやっぱり赤崎だ。
「行くぞ! 行くに決まっている!」
「じゃあ準備するから、僕が合図したらこのボタンを押してねぇ」
ボタンって、台座横の?
俺が台座を覗き込んでいると、赤崎がやって来た。
「なぁーに、朝比奈君の分まで、このボクが頑張るさ!! はっはっはっは」
そう言って奴は黒い地球儀を回転させ、俺の背中を押した。
「あ、ちょ! 今座標を設定してい──」
聞こえたのはそこまで。
赤崎に背中を押され、台座の横にあったボタンに手を突いてしまった。
ポチ──
そんな音と共に、俺の足元がぱかっと開く。
そして落ちた。
落ちたはずなのに、俺は地面に立っていた。
ただしそこには空がなく、周囲はぽぉっと淡い光に包まれた──
洞窟だった。
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