第97話 獣人の価値観
「それにしては、
振り向きざまに彼が手渡してきたのは、
それは、紙コップに入れておくには惜しいぐらいの
「まっ、まぁそうですね。ちょっと色々とありまして……えへへへ」
確かに、そう言われても仕方が無い。
今回の目的は
ただそれだけだったのだから。
それさえ達成できれば、後は
つまるところ、
「で?
「えぇ、無事入手出来ました。本来は
「ふぅん、そうか。どちらにせよ、手に入ったのならそれで良い」
あまり興味なさげに、自分用のコーヒーを
彼的には、誰がどのように入手しようと、特に興味は無い様だ。
「しかし、こんなに上手くコトが運ぶとは思ってもみなかったな」
「そうですね。やっぱりヤクザ屋さんって腕っぷしが強いから、まさか自分が襲われるなんて、はなから思ってもみないものなんですかねぇ」
「いやぁ、そんな事は無いと思うぜ。確かにウチみたいな弱小所帯は上からの圧力があるから簡単に
おぉ、鉄砲玉と来たかぁ。
そう言えば、初めて組事務所に行った時も、すごい重装備の人たちに出迎えられた事があったっけ。
「
その通り。
今回の作戦は、
なんと、
今回のゲームに参加させたのも、組の関連企業である闇金から金を借りていて、かつ風俗経験のある若い女……と言う事で、リストアップしたに過ぎない。
しかも、本人説得に向かったその日、偶然にも夜逃げをしようとしていたらしく、あとくされの無い、まさにデスゲームにうってつけの人材であったと言う訳だ。
そんな
まず手始めに、
将を射んとする者はまず馬を射よ……と言うヤツだ。
とは言え、その真の目的は
つまり、長い時間をかけて恋仲になる必要性は無く、行きずりの恋、一夜限りの情事で十分と言う訳だ。
これならば、何とかなるだろう。
そこで、
本人は、ぜんぜん暇じゃありませんよ! とかなんとか、最後まで言い張ってたんだけど。
結局、日給一万円であっさりと手を打ってくれた所を見ると、流石は金の亡者としての
そして、実際に彼女を
いかにもな肩書に、程よいルックス。
アラフォーの熟女を落とすには申し分がない。
しかも、何か問題が起きたとしても、最悪は
最終的に、母親の
当初の計画通り、手に入れた母親の
なんと、三か月以上もの間、彼女の家に立ち寄っていない事が判明したのだ。
マズい、非常にまずい……。
このまま
急ぎ、その状況を
すると、
『今すぐ
流石にこれには僕も驚いた。
そんな事をしようものなら、いきなりの修羅場だ。
自分の情婦に、他の男が手を出したともなれば、ヤクザ者の
案の定……と言うべきか、それとも
なんと、激怒した
こうして、僕たちはまんまと
「いえいえ、最後は
「あははは。違ェねぇや。で、これからどうする?」
「そうですね。まず、
「ほほぉ、そうかい。
「はい、お願い致します……と言いたいところなのですが」
とここで、
「なんだ? 何か問題でもあるのか?」
「いえ、問題と言うほどの事では無いんですけど、
「ん?
「どうやら、
「ほほぉ、恨みねぇ……」
何か思い当たる節でもあるのだろうか?
「例えばどんな?」
「そうですね。彼女の記憶を見る限り、中学生の彼女をレイプしたのは
「なるほどなぁ……そう言う事か。つまり、殺したいぐらい憎い相手……って事だな」
「そうですね。そう言う事になりますね」
「で?
「……はい。そう……考えています」
僕の
「ふぅぅん。そうか……だがな、
「……はい」
「誰しもが、お前の様に強い訳じゃないぞ。あぁ、もちろん、精神的にと言う意味だ。少なくとも彼女は
「……」
「その壊れた部分。それが、お前みたいに、もともとどうでも良いと思える様な部位であれば問題はねぇ。だけどな。もし、その壊そうとする部分が、自分の人格を形成する一部だったとしたら……」
「だと……したら?」
「彼女の人格が
「受け入れるって……僕が……ですか?」
「そりゃそうだろう。もし彼女の人格がぶっ壊れた時、それを後押ししたのは少なくともお前ェだ。責任の一つも取らねェでどうするよ?」
「はぁ……そう言う事ですか」
とここで、
「でもまぁ、分かるぜ、お前の気持ち」
「え? 僕の気持ち……ですか?」
「そうだよ、お前の気持ちさぁ。
「なんですか、それって。僕は別に
「いやいやいや。彼女には優しくしたい。望みを叶えてやりたいなんて言いつつ、もしそれで心を壊したとしても、それは本人の勝手でしょ。僕の知った事じゃありませんよっ! って顔に書いてあるぜ。あはははっ」
「やっ、ヤメて下さいよ」
「でもまぁ、それで良い。人間なんて
「いっ、いいえ。僕はそんな風には思いませんよっ! もし彼女がそんな事になったとしたなら……」
「おぉっと、
「もう一度言うぜ、それで良い。それで良いんだよ。そうしねぇと、今度はお前が全ての責任をしょい込む事になっちまって、お前自身が
「でっ……でも」
「ほっとけ、放っておけって。女なんて、ごまんと居るんだ。お前だって、ホンキで
「……」
「さて、
両手を広げ、軽くおどけてみせる
そんな彼を見て、なんだか少しだけ心が軽くなった様な気がして。
「
「当たり前ェだろぉが! あいつら大食いなんだからさぁ。生活習慣病を抱えた中年オヤジの肉って言うのは、アイツらにゃ少し申し訳ねぇが。まぁ、背に腹は替えられねぇからなぁ」
「自分の
「あはははっ、元々俺は獣人だからな。人間の事なんざ知った事か」
確かに
僕は少し甘かったのかもしれない。
いくら相手を憎んでいるとは言え、最終的に手を下す事が出来るかどうか? とは別の話なのだ。
それなのに、僕は何の覚悟も無いまま、
そう、それは単なる責任の放棄に過ぎない。
本当に
蹴っても良い、殴っても良い。
ヤツが死にそうになるぐらい、痛めつけてやれば良い。
だけど……だけど彼女に最後の一線を越えさせてはいけなかったんだ。
「ふぅ……」
クロと同じだ。同じ匂いがする。
外見上、全く見分けは付かないけれど、この人は間違い無く獣人なんだ。
人間とはぜんぜん違う、そんな価値観の中で生きている。
となると、僕は一体何なんだろうか?
人間か? 獣人なのか? その定義って一体……。
ほんの
「……」
まぁ、いまそれを考えていても始まらない。
まずは
無言のまま、一人先に部屋を出て行こうとする
僕は少し重い足取りで、そんな彼の背中を追いかけて行く事にしたのさ。
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