第80話 服従の誓い
「それじゃあ、もう良いですよね」
「え? もう良いって言うのは……」
突然の僕の発言に、
「いやいや、当初の目的は北条君を助け出す事……でしたよね。その手伝いをするって事で僕はココまで来たんですよ。既に足かせとなっていた首輪は外れてるし。目的は十分に果たしたと思うんです。後は
「いや、しかし」
それに、僕の能力をこれ以上知られない様にする為にも、僕やクロの
「
まぁ、当然の質問だわな。
どうするかって言えば、まずはクロの救出が最優先か。
リュックごと引き離されて既に小一時間。
クロのヤツ不安がってないかな?
泣いてるかな?
いや、怒ってるかな?
うぅぅむ。
いい加減、早く探しに行かないと、独りで勝手に暴れ出す可能性だってあるしな。
そうだな。どちらかと言うと、そっちの可能性が高い。
なにより
やっぱり、早く探しに行こっと。
「あぁ、えぇっと。まずは奪われたリュックを取り戻しに行きますよ。それさえ済めば、僕もこんな場所からサッサと撤収させてもらいます」
「そんなリュックなんて放っておいて、このまま一緒に逃げませんか? 大体ここは都心からもかなり離れてるんです。とても歩いて帰れる距離ではありませんよ?」
そうか。帰りの事を考えて無かったなぁ。
どうするかな。
まだ運転免許も持ってないし、もちろん車を運転した事だって無い。
「そうですね。後で先生……いや、ブラッディマリーさんに電話でもして、迎えに来てもらいますよ」
「いやしかし……」
とここで、横から北条君が割り込んで来た。
「
あぁ、そう来たか。
身の危険があるのに、わざわざリュックを奪い返しに行くなんて、理由としてはやっぱり金って事になるんだろうな。
それじゃあまるで、僕が金の亡者みたいじゃないか!
でもなぁ。リュックの中に
「いやぁ、金も大切なんですけど、実はリュックの中に死んだじーちゃんの形見がはいってて、それをどうしても取り返したくって……」
「何くだらねぇウソついてんだお前は。そんな大事なモン普段持ち歩く訳ねぇだろ? そんな事より、早く逃げるぞ。大体、その熊みてぇにデカい犬たちだって、ヤツらには絶対に
「それに
なんだよそれっ。
――ガッ!
「北条君、こんな高校生で悪かったですね」
僕は北条君の首元を片手で
「うぐっ!」
「それに、
「ぐぐっ……てっ、てめぇ……」
「半グレのリーダーだって言うもんだから、もう少し空気の読める人だと思ってましたけど。未だに状況を把握できていないと言うのは、非常に残念です。僕はこの
その間も、北条君のつま先は徐々に地表から離れ続ける。
「いっ、
「
「
え? 後から聞かされたって?
指示してたのは北条君なんじゃないの?
「で、でもそれだったらどうして佐竹を逃がそうと?」
「いや、北条さんはこう見えて、自分の配下に対しては異常なぐらいに面倒見が良いんです。だから北条さんは……」
え?
面倒見が良いって?
ただそれだけで、組事務所にまで行ってボコボコになるまで殴られてたって事?
本当かぁ?
本当なのか? それ?
「北条君、
「うぐぐっ、うぐっ」
あぁ、
「グエホッ……がはっ……はぁ……はぁ……」
「さぁ、話してももらいましょうか。言い分も聞かずに殺すのは、流石に気が引けますからね」
「たっ、確かに俺は佐竹から計画を聞いてた訳じゃねぇ。だが、ヤツは俺の配下に入りてぇと言った。そして俺はそれを受け入れた。となれば、ヤツのやった事は全て俺の責任でもある。お前ぇがソレを気に食わねぇって言うなら、いつでも相手になってやるよ。だから……うぐぐっ!」
「はい、終了ぉ! 北条君にはもう一度黙っていてもらいましょうか」
って事で、もう一回彼の首根っこを締め上げる。
あれ、おかしいな。
てっきり北条君の差し金だと思ってたんだけど……。
北条君はちょっとブッ飛んでるけど、嘘をつく様な人間では無さそうだし。
となると、例の件は佐竹の単独犯……って事なのか?
単なる僕への恨みって事で?
でも脳筋なアイツが、わざわざそんな回りくどい事するかな?
一人じゃ勝てないから仲間を集める……ぐらいの所までは分かる。
にしても、その
なのに、なぜ……?
うぅぅん、困ったな。
やっぱり佐竹を捕まえてから、吐かせるしかないか。
って事は、北条君への
待てよ。
って事は、北条君と
どこか遠くに高跳びされたら、二度と見つけ出せなくなる可能性が高い。
って事は、佐竹を捕まえて白状させるまでは、近くに居てもらった方が良いんじゃないか?
だけど、二人とも
僕が佐竹を捕まえる前に、
うぅぅん。困ったなぁ……。
「あのぉ……
突然黙り込んでしまった僕の顔を、
「あっ、あぁ。すみません、ちょっと考え事してたもので」
「ねぇ、タケシ。横で聞いてたアタシが言うのもなんだけど、アンタがアノ
「おぉ、その手もあるよね。
「タマって言うな!」
――ドサッ。
首根っこを押さえ過ぎたせいか。
僕が手を離した途端、北条君がその場に座り込んでしまった。
すこし力を入れ過ぎたかな。
でもまぁ、息は荒いようだけど、気を失っている訳じゃない。
「それじゃあこうしましょう。僕が今日限りで
「あぁ!? お
「北条君は黙ってて。じゃないとまた首根っこ
北条君は自分の首元を
「それでは改めて。今日限りで
「おい、
「簡単ですよ。この場で殺します。後からもう一度探し出すのは面倒ですし。元々このゲームに参加した時点で、生き残る可能性はゼロだった訳でしょ。もはや、死ぬのが早いか遅いかだけの違いでしか無い訳ですから。ただ、その場合ですけど、北条君の殺し方は
「それじゃぁ……どうやって
「え? それじゃダメなの?」
「おいおい、マジかよ。その程度の知識で、良く
「なんだよぉ。それだったらどうすれば良いのさ」
「大体、この場に
ふぅぅん。
あぁ、運営の人が電話してた相手だな。
アノ人が元締めなのか。
そしたら、さっき
記憶を検索してみよっと。
えぇっとぉ。
……
おぉ! 見た事あるぞっ!
って言うか、コイツ。
地下駐車場で僕の事を
コイツの
なぁるほどぉ。コイツかぁ!
顔は若そうだけど、なんだよ、結構歳くってんじゃん!
そうか、よしよし。
さっき電話でココに来い! って言っておいたからな。
コイツが来た所を倒してしまえば、簡単に元締めを消せるって訳だ。
おぉ、僕にしてはGood Job!
「それじゃあ、その
「おいおい、お前は馬鹿か?」
なんだとぉう! バカって言う人がバカなんですぅ!
いまにも北条君に
「ヤクザの組織を甘く見ちゃ駄目だ。たとえ
「それじゃあ、どうすれば良いのさ」
「組織のトップを
「もしくは?」
「お前が組織のトップになる……だな」
「僕がヤクザの組長にぃ?」
いやぁ。
やってみたいか? って言うと、そうでもないし。
やってみたくないか? って言うと、これまた、そうでもない。
まぁ、ゲームで成り上がり系は結構やったクチだから、面白そうではあるけれど……。
「あはは。まぁ、そりゃ無理だわな。お前がいくら力を持っていたとしても、何の実績も無いヤツに、他のヤツらが屈したりはしない」
「だったら最初から言わないで下さいよ」
「とにかく、そう簡単には行かないって事さ」
「でも、言いたい事は分りました。実績の無い高校生
「まぁな。そう言う事になるわな」
「でも、それだったら簡単に解決できますよ」
「簡単!?」
「えぇ、僕が組長にならなくても、北条君か
「ほほぉ、大きく出たな。俺にお前の子分になれって言うのか?」
「えぇそうですよ。でなければ、今ココで死んでください。僕は別にそれでも構いません。死人に口なし。ココに居る人たち全員まとめて殺してさえしまえば、僕は疑われる事すらない。あとは僕一人で佐竹を捕まえて始末するだけ。全然無理ゲーでもなんでもないです。さぁ、判断するのは僕じゃなくて、北条君、あなたですよ。どうしますか? 僕に忠誠を誓い、かつ
「ははっ、はははっ、あははははは!」
「え? 僕、そんなにオカシイ事言いました?」
「あはははは! すげェな。これが高校生の言葉だとすりゃ、もう、笑うしかねぇな」
「で、どうするんです? ヤルんですか、ヤラないんですか? 選択肢は二つに一つです。こんな事をするのもどうかとは思うんですけど……」
そう言いつつ、僕は軽く手をあげてみせる。
「「グオォォォロロロロ……」」
一体いつから。
気付けば
「今は押しとどめてますけど、僕が手を下ろせば、その瞬間、北条君は人間から肉の
「いや、もう良い。
「ご理解頂けて本当に助かります。別に北条君たちをどうこうするつもりはありませんし、北条君がトップに立ってくれて、僕に危害が及ばない様にしてもらえるのであれば、後は自由にやってもらって構いませんよ。それから、靴を舐める必要はありませんが、後で……」
「後で?」
「尻を貸して頂けると……」
「尻?」
――バシッ!
「あうっ!! なんだよ
「アンタ、この状況が分かってるの!? ソッチの趣味は後になさいっ! 後にっ!」
「え? 趣味?」
急に
「いやいや、趣味じゃ無くって、儀式と言いますか、誓いと言いますか……」
――バシッ! バシッ!
「あうっ!! あうっ!! 今度は何だよぉ
「だから、それが趣味だって言ってんでしょ! あんたヤリたい盛りの高校生って言っても、ちょっと限度があるわよっ!」
「えぇぇ。だから、趣味じゃないってぇ。誤解だって、
――バシッ!
「あうっ!」
――バシッ!
「あうっ!」
――バシッ!
「あうっあうっ!」
その後も
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