餓鬼

Meg

第1話 不気味な赤ちゃん

 両親の1番の罪は、わたしをこの世に生んだことでした。

 わたしの1番の罪は、この世に生まれたことでした。


 

 ××県〇〇市の病院で、双子の赤ちゃんが生まれた。

 保育器の中で、スヤスヤ眠る二人の赤ちゃん。身を寄せあう両親は、恐怖に戦慄し、震えながら見つめていた。

 1人はまあいい。ごく普通のかわいらしい赤ちゃんだ。

 問題なのは、もう1人。その子の肌は、土気色をしていて、赤ちゃんとは思えないほど硬く、ザラザラとしていた。しかも、腹がでっぷりと膨らんでいる以外、ガリガリに痩せている。歯茎にはすでに、小さいながら鋭い歯が並んでいた。

 妊娠中に検査をした際は、異常なかったのに。

 医師は奇妙に思いつつも、赤ちゃんには個体差があること、成長すれば普通の子と同じようになる可能性が高いと伝え、両親をなだめた。

 両親はしかたなく、かわいい赤ちゃんと、不気味な赤ちゃんを抱え、退院した。


 

 家に帰った両親は、かわいい赤ちゃんばかりをかまった。おっぱいをやり、おしめを変え、抱き上げてやさしい言葉をかけ、子守唄を歌う。

 かわいい赤ちゃんは、小さな手足を元気にパタパタ動かし、キャッキャと笑い、威勢よく泣いて、愛らしい寝顔を見せてくれる。かわいくてたまらない。

 不気味な赤ちゃんは、隅のベビーベッドに寝かせたまま、様子を見ようともしない。しないというか、できない。

 だって、あの鋭い歯に乳首を噛みつかれたらどうなる? 母親は怖かった。

 父親も、硬くザラザラした、赤ちゃんらしからぬ土気色の肌に触れたくない。

 二人とも、ガリガリの体も、でっぷりと膨れあがった腹も、ギョロっとした魚みたいな目も、見たくない。

 ミルクは最小限、オムツも必要最小限しか変えなかった。ましてや抱き上げることなど、ありえない。

 その子がオギャオギャ泣き叫び、両親を求めても、近寄りもしない。触れることを想像しただけで、鳥肌が立つ。



 その子はどんなにミルクをやっても、腹以外はガリガリに痩せてたままだった。

 でも、常に腹を空かせているようで、絶え間なくミルクをやらないと、夜通しでも泣き続けた。

 声も異常だ。普通の赤ちゃんより、キンキンと甲高く、耳障りだった。

 泣き声も聞きたくない。最低限のミルクとオムツのとき以外は、ベビーベッドを何十もの布でくるんだ。



 双子の赤ちゃんは、ハイハイのあと、ヨチヨチと歩くようになった。

 かわいいほうの子が寄ってくると、両親はもろ手を上げてその子を包み、頬へキスした。

 不気味な子も、同じように両親に寄る。そのとき、その子は鋭い歯を剥き出しにして、必ず笑い顔を作った。

 かわいい子が笑い顔で寄っていくと、両親も笑い顔になって、いつもより抱擁が強くなるのを、観察して覚えていたから。笑い顔が大人を惹きつけること、好意のしるしであることを、心得ていた。

 が、その子が寄っていくと、両親は笑い顔どころか、肉感のないゴツゴツした額を、小さく押しのけるだけだった。

 その子は嫌われ者である自覚を抱き、泣いてどこかへ逃げる以外なかった。



 両親にも、あわれみの心がないわけではない。きっと寂しいのだろうと思っていた。

 だから、食べ物とおもちゃだけは、好きなだけ与えるようになった。

 不気味な子は、ミルクでも離乳食でも、異様に食べた。異常と言ってもいいほどの食欲だ。

 おもちゃに関しては、特にぬいぐるみや人形のような、動物や人型のものがお気に入り。

 大人気のアンパンのヒーロー、イヌ、ネコ、ウサギ、サンタ。

 ぬいぐるみや人形は、両親とは違い、その子が触れても、常に笑みを浮かべているからだろうか?

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