第10話 戸惑いと疑惑と

 そこに集まった皆が皆、目をキラキラとさせて見つめたことは想像に難くない。そしておそらくは、誰しもが触ってみたいと思ったはずだ。そしてそこで事故が起きた。誰かが銃身を折って、弾丸を入れる真似ごとをした。そしてそのとき、わたしが正面に廻って覗き込んだ。そのときに運悪く銃身が跳ね起きて、照準を合わせる長い銃身の先に取り付けられてある照星が、わたしの目を直撃した。あと数ミリ、いや1ミリでもずれていたら、わたしは視力を失っていた。

 父の怒りは「怒髪、天を衝く」勢いだった。が、怒りにまかせた鉄拳の制裁はなく、正座をした兄を前にしてボロボロと涙を流したという。母の、それこそ命をかけたかのごとき制止もあってのことだったようだ。兄をしっかりと抱きかかえて「許してやって下さい、わたしが罰を受けますから」と、懇願した。

 その折に父が言った言葉を、誰だったか判然としないけれども、聞かされた。その場に居たのは、父と兄とそして母。三人だけだろう。いやもしかして、病室でのことだったのか。同室の入院患者に聞かされたのだろうか。小児病室だろうから、付き添いの親のということになるのだけれども。いや待て、従兄に聞かされた気がする。わたしの事故を母からの連絡で知り駆けつけてくれたのだろうか。自分だけでは父の怒りを抑えられないと判断した母が、従兄の応援を求めたのかもしれない。

「憎くて叱るのじゃない。この子は、将来人の上に立つ子どもだ。下の子の面倒ぐらい見られてなくてどうする」

 父としては帝王学の思いで、兄に辛く当たっていたのだ。しかし兄には耐えられるものではなかったようだ。兄がまだ幼い頃には周囲から「蝶よ花よ」と甘やかされたものの、わたしが生まれた途端に父からの激しい叱咤を受けるようになったのだ。戸惑いと疑惑と、そして嫉妬の思いが渦巻いて当たり前のことだったろう。

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