触れると消える

荒場荒荒(あらばこうこう)

第1話 魔導石がある世界

唐突にこんな話が話が書いてみたいなって感じで書いたのでもしよろしければ読んでみてください。

ただし、普段より1話あたりの文字数が多いですがそこはご了承ください。


 この世界、アタラクシアには魔導石が存在し、人間社会ではそれが当たり前のように利用されている。火を起こすにも、水を出すにも、土を耕すにも、風を吹かせるにも。この世界で生きる人々には必要不可欠な存在だ。これだけ人の営みに根付いた魔導石は人という種がこの世界を我が物顔で生きるようになる遥か昔、魔導石の祖、アルトワーズが雨として降らせたものであるとされている。その理由は定かではないが最も有力だとされるている説は、「自分と肩を並べる存在がいなかったから」というものだ。自分以外の全生物を憐れむ心から降らせた雨だということから「慈雨じう」と呼ばれることになる。


「慈雨」は1つの例外もなく全ての生物に少なくない影響を与えた。単純な知恵しか持たない獣たちは降ってきた魔導石を警戒することなく、ちょっとした腹ごなしをするかのように体内に取り込み、魔獣としてそれまで以上の凶暴さをもって跋扈するようになる。


 それ以外の知恵ある生き物、人間のようなもの達は体内に取り込むことはしなかった。いきなり降ってきたものを食べるような愚行をする人間はほぼ存在しなかった。代わりに魔導石を道具として扱う方法を見つけ、利用することで独自の発展を遂げていく。


 ただ稀に存在した知恵を持ちながら愚行に走った人間。そのほとんどは摂取した瞬間に爆ぜ、物言わぬ肉片に成り果てた。しかし、そんな中でも生き残りを果たしたものが存在し、そういったものたちはそれぞれが独自の生態系を生み出し、人とも獣、魔獣とも違うまた新たな種族としてその子孫たちが今も生きている。





 ここはとある村、付近にはときどき魔獣が現れ、それらを狩ることで食用肉や毛皮、内臓されている魔導石を手に入れ、なんとか最低水準を保った生活を送っている。


「かーちゃん!いってきまーす!!」


「気をつけて行ってくるのよー!」


 平和な日常を送る家庭から今日も1人の少年が籠を背負って出かける。いつも待ち合わせしている、普段は遊び場として使っている広場の木の前に向かう。

 そこに着くとこれまたいつもの面子、1人の少年と2人の少女が同じく籠を背負って待っていた。その横にはいつも引率してくれる大人の男性が1人が腰に両刃の剣を差し、皮の鎧を着て立っていた。普段は畑仕事や魔獣狩りをしているが、この日は週に1度の採集の日である。自分たちでは育てられないような植物を採りに行きつつ、子供たちが少しでも村の外の危険性を知ってもらい、いざと言う時、具体的には魔獣を目の前にしたときに硬直するようなことがないように慣らす目的で採集の日を設けている。


「今日はキビスをメインに採集しに行くぞ!」


 引率の男性が今日の目的を口にしつつ、それに応じるように子供たちは元気に返事をする。



 村を出て5分程歩いたところにある採集スポット。4人と1人の1団はすで30分程滞在していた。


「十分収穫できたし、そろそろ帰るぞー!」


 引率の男性のその一言で子供たちは採集を辞め、村へと帰る。ここまで素直に言うことを聞くのは一重にこの男性の人徳によるもの。村の中でもその腕とワガママ盛りの子供たちを従わせる毅然とした態度で信頼が厚いからこそ自分たちの大事な我が子を危ない場所へ連れていくことを認めているのだ。

 しかし、子供たちを従わせられても、その男の腕では解決できない強敵と出くわしたとき、子供たちの安全は脆く崩れさることになる。


「ギャオオオオオオ!!!」


 それは空を駆る肉食のトカゲ。1度エサだと決めた相手を執拗に追い続ける。強者にとっては空を飛ぶだけで迷惑、面倒だと思っても倒すのは問題ない。だが、村の中で腕が立つ程度では到底叶わない存在。それが今、引率の男性の背にいる4人の子供たちを標的に定めてしまう。

 気がつくとそれは急降下し、一直線に突っ込んでくる。ここで引率の男性ができるのは子供たちの盾となることのみ。剣を正面に構えその時を待つ。…がその時が来ることは無かった。


 決して一瞬たりとも目を離したつもりはなかった。だが目の前に広がるのは首と胴体が袂を分かたれたトカゲ。理解が追いつかない。整理出来ない。ただただ混乱している男の前に現れたのは漆黒のロングコートを身に纏う男。その姿は神に仕える神官を想起させる。しかしその手には穢れを知らない純白の刀が握られていた。

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