死神は殺さない。
@XholdwrIteX
プロローグ 一世紀くらい前のお話
「光よ!」
これは、今から一世紀くらい前の出来事だ。
何千年振りだろうか。暗闇と謎に包まれた遺跡の最深部に、遺物「太陽」の光がもたらされた。その日、三人の探検家によって初めて、最古の遺跡「エタナリア」が踏破された。まるで彼らを歓迎しているような輝きを放つそこは、金でできたダイヤモンドのような、探検隊の彼らでも見たことないような豪華な宝石が壁にも床にも天井にも、びっしりと詰められていた。
もっとも、それ全ての価値を遥かに凌ぐ物、最大の遺物が中央に佇んでいるわけだが。
「はぁ、やっとたどり着いたわね。この部屋の有り得ない程の輝き、あの箱から放たれるそれを凌ぐほどの、並々ならぬ重圧……!間違いなく、我々の探し求めていた遺物だわ!」
安堵のため息をついたのは若き紅一点、ヴィクトリア。ルビーのような長髪が「太陽」の光でより輝いている。重装備ながら、グラップルやロープ、己の圧倒的な脚力を駆使して軽やかな身のこなしで森や遺跡を飛び回り、道なき道を開拓して隊をサポートする。
「この世界のどんなものよりも美しいな、ここは。もはやこの日のために、僕たちは生きてきたようなもんだ。そうだろ?隊長」
そう語る彼は最年長の隊員であるナール。重装備の探検服である他二人と違い、白いマントにナイフ一本、必要最低限の遺物しか持たない軽装に身を包んだ異色の探検家だ。とりわけ遺物の扱いや遺跡の仕掛けなどの扱いが得意なチームのエンジニアだ。
「……」
沈黙を貫く彼は探検隊のリーダー、タロト。幾多もの危機を乗り越えたのは、鍛えぬかれたパワーと体力と銃の腕前、そして天性の頭の回転の速さと経験からくる状況判断力のおかげだ。口はあまり開かないが、かなり面倒見がいい。
彼率いる探検隊はあらゆる未踏地域、古代遺跡を踏破し、様々な功績をあげた。遺物と呼ばれる、超常現象を引き起こす未知の物質を初めて発見したのも彼らだし、発見された二十個の内十三個は彼らの手柄だ。
そして今、二十一個目の遺物が目の前にある。それはまるで……棺だった。それも豪華な装飾をふんだんにあしらえた。数千年前の王様が眠るのに相応しい場所ともいえる。ただ、この遺跡といいこの棺といい、誰が何のために作ったのか、どうやって作ったのかはわからない。そんなことができる技術が数千年前の文明にあっただろうか、見当もつかない
「さぁ、行こうじゃないか。あの遺物がどんな力をもたらしてくれるのか、調べてみよう」
ナールが一足早く、その煌めく棺のような遺物へと近づこうとする。遺物を最初に調べるのは彼の役割に決まっている。
だが、今日はそうとは行かないらしい。
バァン……轟音が、この輝く空間内に響く。
突然にして、一瞬だった。ナールへ銃を放つタロト。凶弾はナールの脳天を貫き、血しぶきは床に落ち、僅かだが遺物にも届いていた。
それを気にすることなくタロトは銃口を彼女へ向ける
「お、お、お願い、嘘だと言って、これは悪い夢だって!た、助けて!」
ヴィクトリアは想定外の事態に混乱してしまい、持っている武器を出して抵抗するという選択肢が出てこず、代わりに望みの薄い命乞いをすることしかできない。
「すまない……愛してる」
哀れ。ヴィクトリアの嘆願虚しく、もう一発の弾はヴィクトリアを葬ってしまった。
「俺はこれからも、お前だけを愛している。だが、ナールと共に俺を裏切った事は許さない」
二人を始末したタロトはゆっくりとした歩みで、神々しく煌めく遺物へと近づく。――――本当は殺したくなかった。長い旅を共にした二人と一緒に、この棺の中身を知りたかった。だがナールの真実、そしてヴィクトリアの裏切りを知ってしまった以上は、彼らにこの遺物を利用されるわけにはいかなかった。
二十一番目の遺物「神の棺」
その遺物を開いたら最後、開いた者はこの世界の理から大きく逸脱する、禁断の遺物。
それを開くとタロトは、幻想的な音と共に生まれた、宇宙を産んだ光のような煌めきに包まれた。
「……はは……これ…………で……いい……」
確かに脳天を貫かれて死んだはずのナールは、最後の力を振り絞り、亀のように這う。もう一歩、もう一歩、そしてやっと……その光の端を一瞬触れた。彼にとってはそれで充分だった。
「ぜんぶ……え……がいた……とおりだ……」
この日、厳重に保管してあった遺物、総数二十個が、一夜にして姿を消した。金庫を破られた形跡は無く、犯人らしき姿は誰も確認していなかった。秘匿にされていたはずだったその怪事件は、真偽のわからない噂話として世界中に広まり、謎は信憑性のないうわさや学者などによる考察と共に新たなる謎を呼んでいった。遺物の捜索は四十年に渡り、遺物泥棒として捕まった容疑者は1万人にものぼったが、結局一つたりともも遺物を見つけることは叶わなかった。
そして事件から一世紀後……つまり現在
その遺物達はなぜか、日本の桜田町に散らばっていた。選ばれし者が遺物を手に入れ、その力を行使する。戦いの火ぶたは、もう切って落とされていた。
虚 死生。持つ遺物は「刈り取る鎌」
彼もまた、この戦いに代行者として使命を果たすべく身を投じる者の一人であった。
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