第11話:それは、もうじき

体調を崩した次の日、少し良くなったのだと思った。けれど次の日にはまた悪くなり、また次の日には少し良くなり・・・・と、ずっとこれを繰り返して一週間が経過した。やっぱりなんか変だと思い病院へ行くも、結果は異状なし。至って健康体だと医者のお墨付きをもらった。


(どうなってるんだ?)


まったく訳が分からないままその日は帰宅する。


しかし次の日にはまた悪くなっていた。今度は少し視界がぼやけるようになった。


「いよいよまずいかもな・・・」


どうしようかと考えていると、安陪さんがこちらへやって来た。


「・・・・木霊君、ちょっといいかしら」

「ん、ああ・・・安陪さんか。なに?」

「あなた、今どれくらい見えてる?」

「・・・・・・・・えっと」

「ごまかさなくていいわ、わかるもの。今のあなたの状況」


俺は観念して正直に話した。


「そう、もうそれほどまで・・・」

「その口ぶりだと、本当に知ってるみたいだね」

「ええ・・・掴まって。リビングへ行きましょう、そこでみんなも交えて、ちゃんと話すわね」

「・・・ああ、頼むよ」


安陪さんの型を掴みながら歩き出す・・・・はずだったが。


「~~~~~~っ!!ちょっと!!どこ掴んでるのよ!!」

「イッテ!!??」


バチンッ!!と頬を叩かれた。


「ちょっ!なにすんだよ!?」

「こっちのセリフよ!なにどさくさに紛れて人の胸触ってんのよ!」

「え!?ごめん!?」


あんまり見えていないのだから不可抗力とも言えなくもないが・・・まあ女性からしたら関係ないか。申し訳ない。


なんてことがあったが、どうにかリビングに入りいつものソファに座る。


「む、来たか」

「祐介さん、大丈夫ですか?」

「ああ、まあ何とか?」

「全然見えてないんだから、大丈夫なわけないでしょう」

「・・・・」

「まあなんにせよ、これで全員そろったな」


そう言うとスウさんは「では」と話を切り出す。


「まず小僧、貴様の現状だがな・・・・今の小僧は生命力がごっそり削られている状態なのだ」

「・・・・・・・生命力?なんでそんなことに」

「うむ、それは、我らに原因がある」

「スウさんたちに?増々わからんが」

「まあ聞け。以前言ったな。貴様が赤い石に触れたことで、我らが解放されたと。友理奈の調べで分かったのだが、どうもあれは、解放者・・・つまり小僧と解放されたもの・・・我らとのパスを繋ぐことで解放し、その存在を維持する、というものなのだ」

「パスってのは、つまり・・・」

「うむ、貴様が今も絶賛減らしている生命力。これを我ら三人に流すことで、我らは今もこうして存在していられるということだ」

「あれってそんなものだったのか」


思い返せばいかにも何かありそうな石。ただスウさんたちを解放しただけで終わるほど、甘くは無かったということだろう。


「それで、どうにかなるものなのか?」

「・・・出来ないわけじゃないわ、ただ、あなたはそれを良しとはしないでしょうね」

「・・・・・・とりあえず、話してくれるか」

「・・・わかった」


安陪さんは以前スウさんたちとは話したことだと先に言って、説明する。


「現状、あなたの生命力を回復させる手段は無いわ。そもそも人の手でどうにかなる代物じゃないから。・・・方法は二つある。一つは私が以前言ったように、三人を再び封印すること。ただこれは今となっては厳しいの」

「・・・どういうことだ?」

「三人の力が、思った以上に強くなってる。再び封印したとしても、弱体化していない彼女たちじゃ、すぐに封印は解かれる。そしておそらく解放者は再びあなたになるわ。それくらい、今は協力なパスが繋がっているの」

「・・・・なるほど。もう一つは?」

「・・・・・・・・荒唐無稽な話に聞こえるかもしれないけど、転生させるのよ。別の生き物にね」



時が止まった気がした。いや俺だけかもしれないが・・・・。今安陪さんは何て言った?転生?



「えっと、転生って言った?」

「ええ、言ったわね」

「・・・出来るの?」

「馬鹿にしてるの?」

「なんでそうなる。違くて、そんな漫画みたいなことが出来るのかってこと」

「ええ、可能よ」

「・・・・・っ!なら!「けど」・・・・・っ」

「再び人間に、あるいは妖怪に・・・とはいかないわ。せいぜい、そうね・・・小さな動物くらいかしら」

「・・・理由は?」

「前に話した、昔陰陽師がやらかしたことにつながるのだけど」

「生贄がどうこうってやつか」

「そう、あれって何の実験をしていたかというと、まさに転生なのよ。それも人間から人間への転生。けどそれを行うには、どうしても人間の生贄が必要なわけ。だからあれは禁呪とされているのよ」

「・・・・・・人間の生贄。じゃあ今回それをやろうにも、結局生贄を準備しなきゃいけなくなるってことか。それは・・・・」



できるわけがない。なにより、スウさんたちが望まない。聞かなくてもわかる。だって彼女たちこそが、それで激怒して陰陽師に喧嘩を売ったんだから。



「・・・小僧、我らはな、それでいいと思っている」

「・・・・・・っ!!本気なの?」

「うむ、本気も本気だ」

「けどそれって、転生した後どうなるの?そこに心とか、そういったものは」

「残念だけど、無くなるわね」

「・・・・・。俺は・・・」

「坊やぁ」


何て答えるべきか分からないでいると、さっちゃんがここで初めて口を開いた。


「ウチもねぇ、それでいいと思ってるのよぉ」

「・・・・どうして?」

「確かに心は無くなる、けど、それでもウチらは、坊やとずっと一緒に居られるものぉ」

「・・・・・・っ!」

「だったら迷う余地は無いわぁ。ウチらは転生する、それが最善で幸せな選択よぉ」

「さっちゃん・・・・・」


泣きそうだった。さっちゃんがそこまで思っててくれてたなんて。


そう思っていると、今度は玉藻が言葉を紡ぐ。


「祐介さん、私も同じです」

「玉藻・・・・」

「この約2か月間、祐介さんからはたくさんの物を貰いました。本当は、私から祐介さんにたくさんの物をあげたかったのですが。でも私は十分幸せでした。そしてこれからも姿形は変われど、あなたと共に居られるなら、もうこれ以上は望みません」

「・・・・何言ってんだよ、たくさんもらったのは俺の方だ!俺の方が玉藻から、みんなから!たくさんもらってる!なのに・・・・っ、俺はまだ何も!」


返せていない。その言葉が出なかった。なぜなら、玉藻がそっと抱きしめてくれたから。


「十分なんです、本当に、すごくすごく、幸せでした。だから、ありがとうございます、祐介さん」

「・・・・・うっ・・・・・んっ・・・」


もう涙は止まらなかった。皆の顔は見えてないけど、きっと笑っているのだろう。


「ふっ、さて、この流れだと最後は我が何か言うべきなのだろうが・・・・」


スウさんはそう言って逡巡した後、やはりというべきか、予想を裏切らない一言を口にした。


「うむ!特になし!」

「絶対言うと思った!」


俺は泣きながらツッコミを入れた。


「そうは言うがな小僧、我から言う事は本当にないのだ」

「いやさすがにこの場面でそれはどうなの?」

「馬鹿者、本当にないものは無い・・・・・なぜならな、我から貴様に伝えるべきことは、今日までに全部伝えているからだ」

「ぁ・・・・・・・」

「忘れるでないぞ、

「スウさん・・・・。うん、わかったよ」



俺の言葉に、満足そうにうなずくスウさん。



「・・・さて、友理奈、悪いがさっそくやってくれるか。小僧からの力の流れが今更に活発になりつつある。急いだほうがいい」

「・・・・・っ。わかったわ、それじゃあ、全員庭に出てもらえる?」


そう言って安陪さんは窓ガラスを開けて庭へ出て、何やら準備を始める。


俺も玉藻に肩を借りて庭に出た。


「それじゃあ三人は、この魔方陣の上に立って」

「うむ」

「えぇ」

「はい」


三人は魔方陣の上に立つ。


そして。


――――――いよいよ、俺たちの奇妙な生活に、幕が下りる。

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