第8話:休日デートと思った?そんなわけないんです

「明日は朝10時に学校前集合ね、遅れないでよ」と言われてから夜が明けた今日。待ちに待っていたかは分からないが、とにかく安陪さんに町を案内する日がやってきた。世間ではこれをデートというのだろうか。俺にはそんな経験無いし分からないけど。


「じゃあ行ってくるよ」

「はい、お気をつけて・・・」

「行ってらっしゃぁい」

「うむ、夕飯までには帰ってくるのだぞ」

「おかんか、わかってるよ」


玄関のドアを閉めて歩き出す。なんだか玉藻が少し元気なかったような気がしたが、気のせいだろうか。


(・・・っとそれより少し急がないと時間に間に合わないかも)


俺は速足になり目的地である学校前へと向かった。




学校前に着くと、すでに安陪さんが待っていた。彼女は白シャツにプリーツスカート(だっけ?)、プルオーバーに黒のスニーカーと、清楚感ある可愛らしい服装だった。正直今までのことがあったから、全然思わなかったことだけど、こうして改めて見ると、やっぱり安陪さんは可愛い。正直今までが今までだったから思わなかったけど、彼女はやっぱり可愛いのだ。そりゃクラスの男子がこぞって彼女にアタックするはずだ。


立ち止まる俺に気付いたのか、安陪さんはこちらにやって来た。


「おはよう、木霊君。どうしたの、そんなところで立ち止まって」

「あ、ああ、おはよう・・・いや、何でもないよ」

「そう?それより、時間通りに来るなんてしっかりしてるのね」

「いや、それは安陪さんもでしょ。何分前に来たのさ」

「20分前くらいかな」

「そんなに速く?悪いな、待たせてしまって」

「気にしなくていいのよ、私の性分みたいなものだから」

「性分?」

「そ。何事も速め速めに済ませたいっていう性分。あ、でも今日の案内を速く終わらせたいとか、そういうのじゃないからね」

「分かってる。そろそろ行こうか」

「ええ、まずはどこへ行くのかしら」


おっと、そういえば、どこから周ろうか考えてなかった。けどそんなこと馬鹿正直に言うのもなぁ。・・・・あ、そうだ。


「安陪さんが知っておいた方がいい場所を中心に周ろうと思ってる。特にお店に関しては先に案内しようかと」

「そうね。今のところスーパーの場所しか分からないし、助かるわ」

「決まりだね、じゃあ今度こそ行こうか」


そうして始まった町案内。最近できたモール、コンビニや飲食店などなど。色んな場所を周っては立ち寄って、買い物したり休憩したり、端から見ればどう考えてもデートに見えてしまうようなことを、俺たちは楽しんでいた。というか安陪さんが楽しそうなのは少し意外だった。なぜなら学校ではあまり笑っていないからだ。愛想笑いくらいはしてるけど、今みたいに楽しそうに笑っている姿を見たことが無かった。


「はぁ、楽しかったぁ」

「ああ、俺も楽しかったよ」

「そっか、ならよかった。ありがとう、色々覚えたし、もう大丈夫かな」

「そうか、なら案内した甲斐があった」


素直にそう言ってくれたのは嬉しかった。まあ方向音痴説がまだあるから、不安は残ってるけど。


そんなことを思っていると、安陪さんがさっきまでと打って変わって、まじめな顔をしてこちらを見る。


「ん、どうした?」

「・・・あのね、木霊君。前にも聞いたと思うけど、木霊君の周りで、何か最近変わったことはない?特に・・・・一ヵ月くらい前に」

「・・・・・・えっと、それは前にも言ったように、何もないよ」

「本当に?」

「本当だよ」


今度は顔には出すまいと耐えながら答えた。上手くいってるだろうか、かなり不安なんだが。


「・・・・私ね、この町に引っ越してきたのは、とあるをするためなの」

「し、仕事?」

「そう。ある人物・・・いえ、あるをね」

「・・・・・っ!」


(ってことは、やっぱり安陪さんは!?)


「私は陰陽師の家系に生まれた、安陪家の現当主なの」


ザァァァッ・・・・と風が吹き荒れる。俺は安陪さんの正体を聞いて酷く動揺していた。


(どうする!? この様子だとやっぱり俺の事・・・というかあの三人のこと勘付いてるみたいだし、これ以上どう乗り切れと!?)


いくら考えても答えが出ない。だがそんな俺をやはり安陪さんは待ってはくれない。


「け、けど、で陰陽師ってことは、あの安倍晴明の家系だろ?字が少し違ってないか?」

「ああ、それはそうよ、私の家系はその安倍の分家に当たるのだもの」

「分家・・・」

「ええ、だから本家から離れる際、一文字だけ変えたのだそうよ。まあ歴史的に見たらごく最近のことね」


(納得したわ、だからスウさんたちも、違和感は感じても事実を知らないんだ)


「それにね木霊君・・・君のことも多少は知ってるよ。君の苗字があの樹木の精霊である木霊から由来していることも。そんな君が、唯一妖怪に接触できることも」

「・・・えっと、いきなり何を」

「とぼけてもダメ。私は確信を持ってる。木霊君、知ってるでしょ、妖怪の事・・・三大悪妖怪のこと」

「・・・・・・・」

「・・・・・やっぱり、知ってるんだね」


やはりこれ以上は無理だった。けど正直に教えてしまえば、あいつらはまた封印されてしまう。また、何百年もの間誰にも認識されない日々を送ることになる。そんなの・・・・・・。


(そんなの、認めるわけにはいかない!)


「・・・わかった。知ってることを教える」

「・・・っ!ありが「ただし!」・・・・・!?」

「条件がある」

「・・・条件?何かしら」


俺は安陪さんの目を見ながら言った。


「封印するのは、せめてあいつらが本当に悪さをするかどうかを見極めてからにして欲しい」

「・・・・・・・それは、君はその妖怪のことを知っていて、そいつらが悪い妖怪ではないと思ってるってこと?」

「ああ、そうだ」

「妖怪なのよ?それも三大悪妖怪。悪いやつじゃなきゃ、そんな呼ばれ方はしないわよ」

「じゃあ、そもそもその伝承が事実ではないとしたら?」

「・・・どういうこと?」


と聞き返してくる安陪さんに、もう一つ提案する。正直これは賭けだ。もしかしたら安陪さんは聞いてくれないかもしれないし、聞いて納得したとしてもこの場でってだけかもしれないが。


俺は決意を固めて、安陪さんに言った。


「・・・安陪さんには、みんなに会わせる」

「・・・っ!いいのかしら、会った直後に封印するかもしれないわよ」

「そこが条件だ。それは無しにして、一度あいつらの話を聞いて欲しい。事実がどうなのかを」

「私が妖怪の話を信じるとでも?」

「そこは君の器量によるかな」

「・・・・・・・」


まずい、煽ってしまったか。そう思ったが、どうやら安陪さんは考えているのか目を閉じて沈黙した。俺はこの緊迫した空気に思わずごくりと喉を鳴らす。するとようやく目を開けて安陪さんがうなずいた。


「分かったわ。ひとまずその条件を飲みましょう」

「ほ、ほんとか!」

「ええ、嘘はつかないと約束するわ」

「よかった・・・・」

「ただし、話を聞いてそれを信じるかは保証しない。それと、仮に信じたとしても、それと今後そいつらが悪さをするかは別の話。少しでも危険と判断したら、即座に封印するわ・・・・・・たとえ、あなたに恨まれることになったとしてもね」

「・・・・わかった。それでいい・・・・ありがとう安陪さん」


お礼を言うと、安陪さんが驚いたような、呆れたような顔をしていた。


「・・・・・変な人ね、これからあなたが大事にしている妖怪を封印するかもしれない相手に、お礼だなんて」

「そうかな?ただ普通のことをしただけなんだが」

「妖怪に囲まれた生活をしているあなたが普通・・・ねぇ」

「なんだよ」

「何でもないわ・・・それより、さっそく会わせてもらえるかしら?」

「・・・ああ、ついてきて」


どうにか条件を飲んでもらって、さっそく俺は安陪さんを家に連れていくことに。けど肝心なのはここからだし、あいつらが・・・・特にスウさんが安陪さんに対してどう出るかが分からない。安陪さんが手を出す前にこちら側が出してしまっては元も子もない。俺はやはり緊張しっぱなしで家に帰るのだった。

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