第7話:安陪友理奈、ストーカー説

安陪さんが転校してきてから、3日が経った。相変わらずクラスの連中、主に男子は阿部さんに話しかけようとするが、女子がそれを阻止して守る、という構図が続いてる。・・・男子も諦めるってことをしないんだろうか。


それはそうとこの3日間、俺はあることを気にしていた。その阿部さんから、やたらと視線を感じるのだ。これが例えば熱い視線とかだったら、俺にもついに春が? って思えたかもしれないけど、そうではない。


何かを探るような、怪しんでいるような。そんな視線をずっと感じている。

―――俺なにかしたっけか。放課後あたり、本人に聞いてみようかな。けどそれで全然違っていたら、そもそも見ているのが本当に俺なのか?


そんな考えが頭の中をぐるぐると回る。・・・やばい、そろそろパンクしそう。一度落ち着かないとな。そう思った俺は立ち上がり、自販機へ飲み物を買いに行くことにした。


(ふぅ・・・・しかしほんと、なんなんだろうか。もしやうちのことがバレたのか?確か校舎案内したとき、俺に関することを聞いてきたような)


とそこまで考えたところで、またあの視線を感じた。慌てて周囲を見渡すと、物陰に阿部さんが隠れながらこちらを見ていた。


どうしようか、やはり思い切って話しかけるか?もしかしたら何か困っているのかもしれないし。


「ああ・・・阿部さん、何か用事でもあった?」

「ギクリッ・・・・あ、木霊君、奇遇ね、こんなところで」

「いや無理があるよね」

「・・・・・・・そ、そうよね」


自覚はしてそうだ。しかし安陪さんはきょろきょろと辺りを見回し、自販機が目についてとっさに言った。


「あ、わ、私も飲み物を買いに・・・ね」

「・・・ふーん」

「な、なによ・・・その顔は」

「いや別に」


まだ明らかにごまかしているっぽいが、これ以上詮索しても話すことはなさそうだ。そこまで考えたところでちょうど授業開始のベルが鳴った。


「おっと、そろそろ戻らないと遅れちゃうぞ」

「え、ええ。そうね」


安陪さんの真意がきになるところではあるけれど、ひとまず教室へ戻るのだった。



放課後、俺は特に用事もなく一人帰宅する。・・・・学校を出てしばらく歩き、いつもとは違う道に入ってすぐさまダッシュして物陰に隠れた。すると遅れて走ってくる音が近づいてきた。


やっぱり明らかにつけられてた。一応誰なのか確認するために頭だけこっそり出して見てみると、そこには阿部さんがいた。・・・・・やっぱりか。


(けどなんでこっそり後をつける必要なんかあるのか)


すると阿部さんが一人つぶやくのが聞こえた。


「ええ~、絶対こっち来たと思うんだけど、どこいったのかしら」


辺りを見渡すが、おそらく彼女から俺の姿は見えないはず。しばらく静観していよう。


「ううっ、ただでさえ道なんて分からないのに・・・・こっちから来たんだっけ。あれ、こっちだったかな」


・・・・・どうやら道に迷ったらしい。だったらなんでコッソリつける真似なんて。


「どうしよう、帰るにしても道分かんなくなったし、そもそも木霊君のことまだ何も掴めてないのに~」


俺の事?一体何を知りたいというのか。というかこれ以上放置しとくと、ほんとに阿部さん帰れなくなりそうだな。


(はぁ。仕方ない)


俺は諦めて阿部さんの前に姿を現した。


「阿部さん」

「きゃぁ!!って・・・・木霊君!?どうして!」

「いや、あんだけバレバレな尾行しておいて・・・・まさかバレてないとでも思ってたの?」

「うぐっ、いや~それは・・・・・てへっ」

「可愛くいってもダメだ」


あざといがめちゃくちゃ可愛い。一瞬見取れそうになった。


「それで、なんで尾行なんてしてたんだ」

「え~と、あ!そうそう、木霊君にこの町の案内をしてほしいなって思って!」

「今あ!って言わなかった?」

「い、言ってないわよ!それよりどうなの?案内、引き受けてくれる?」

「・・・まあいいけど、今からだとほんの少しだけになるぞ?」

「じ、じゃぁ今度の土曜日はどうかしら?一日あればそれなりに周れるわよね?」

「まあ、そうだな。いいぞ、土曜日だな」

「え、ええ。それじゃあ、連絡先交換しておきましょ」

「わかった」


色々納得いかなかったが、連絡先も交換できたし、土曜日また会うなら今すぐ問いただす必要もないか。


「それじゃあ、詳しいことは後で連絡するわね。ばいばい!」


そう言って阿部さんはこの場を去っていった。ていうか足速いな。


「さて、俺も帰りますかね」


家の方角に足を向けて歩こうとした瞬間、後ろからもの凄い勢いで阿部さんが戻ってきた。


「木霊君!!」

「うおっ!な、なんだよ阿部さん、帰ったんじゃ・・・」

「大通りまでの道、教えて!!」

「・・・・・・・・・・」


もしかして阿部さんって、方向音痴だったり? そんな放課後だった。




「っていうことがあってさ」

「ふふっ、なんだか愉快な方ですね」


夕食後、今日のことを玉藻に話しながら、食器を一緒に洗っていた。


「もうまいっちゃったよ、何が目的なのかもいまいちわからないし」

「案外、ほんとに祐介さんに気があるのかもしれませんね」

「う~ん、それはないと思うんだけどな」

「そうだな、邪神龍がモテるなど、天地がひっくり返ってもありえんな」


後ろからデザートを求めて冷蔵庫へやってきたスウさんが、失礼なこと言ってきた。


「なんてこと言うんだ!俺だってやればできる!・・・・・かもしれないじゃないか。あと邪神龍やめろ」

「自分で自信なくしておるではないか」

「あら、私は祐介さん、素敵な殿方だと思ってますよ?」

「・・・・・・あ、ありがとう」

「何を顔を赤くしておる、これだからDTは」

「これはDTでなくてもなるだろうが!! あとDTちゃうわ!!」

「え、違うんですか?」

「・・・・・いえすみません見栄を張りました」


くそう、なんて惨めなんだ。これもすべてスウさんのせいだ。俺は恨みを込めてスウさんを睨みつけるが、当の本人はどこ吹く風である。いつか絶対スウさんの弱点見つけてからかってやる。


「そうですか、違うんですね。・・・・・・・・・よかった」

「え?何か言った、玉藻」

「いえ、何も言ってませんよ」

「そう?」

「ところで小僧、その女子の名前は何というのだ」

「ん、ああ。阿部友理奈だよ」

「・・・・・あべ」


スウさんは何か難しい顔をして去っていった。かと思えば、紙とペンを持って再びやってきた。


「小僧、これに漢字で書いてみてくれ」

「え、なんでさ」

「いいから速くせんか」

「わかったよ」


よくわからないが、ひとまず書いてみることに。書いた紙をスウさんに渡すと、スウさんはむむぅと声を漏らしてジッと見ていた。


「ふむ、どうやら字は違うらしい。思い過ごしか?」

「どうしたんだよ、漢字なんて気にして」

「・・・・祐介さんは、安倍晴明という陰陽師をご存じですか?」

「安倍晴明?聞いたことぐらいはあるよ。名前はかなり有名だしね」

「はい、現代においても、彼の名は知れ渡っています。それだけ強力な陰陽師だったのですが、この苗字の”倍”の字が、阿部さんの字とよく似ていますよね」

「ああ、確かに似てるけど、厳密には違うだろ?」

「うむ、阿部と聞いて陰陽師の奴を連想したが、思い過ごしだったかもしれん。だが確実にそうとも言えん以上、小僧、我らのことはあくまで秘密にしろ。いいな?」

「あ、ああ。わかったよ」


それだけ言うとスウさんはデザートを食べるべく、リビングに戻っていった。


「結局何が言いたかったんだ?」

「・・・その阿部さんという方が、もしかしたら陰陽師の家系の物ではないか。そう推測したのではないでしょうか」

「阿部さんが?・・・ん~、そんな雰囲気とかはなかったと思うけどな」

「あくまで推測です。私たちも、本人に会ったわけではないので、これ以上は何とも言えませんが」


安陪さんが陰陽師か・・・・・いや、けど言われてみれば、俺の事をやたらと知りたがったいたのって、そういう事なんじゃないか?だとしたら、これ以上の接触はかなり危険を伴う。


「とはいえ、同じ学校の、しかも同じクラス。接触するなってほうが無理だよな」

「はい、なので我が家のことは他言無用、と思うしかないかと」

「・・・・・はぁ。やっと今の生活に慣れてきたってのに」

「あはは・・・・あ、祐介さんにもデザートのイチゴありますからね、あとで一緒に食べましょう」

「お、いいね。ありがとう、玉藻」


とりあえず阿部さんのことは忘れて、玉藻と新鮮なイチゴを堪能した夜だった。

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