第294話 軽い会話

ケイオスが加わったことにより、作業量的にかなり余裕が出来たので明日の仕込みもついでに終わらせておく。


「シリウスって本当は世界一の料理人の子供なんじゃない?王子様よりもしっくり来るし」


その作業を見ていたケイオスから出たのがそんな言葉であった。


褒めてるのか貶してるのかは分からないけど、とりあえず。


「そんな事を言うケイオスくんには、デザート無しで」

「誠に申し訳ございませんでした」


デザートをチラつかせると直ぐに謝罪が出てくる辺り、それなりに楽しみにしてくれてるのだろうと分かるというもの。


「謝罪を受け入れましょう」

「つきましては、デザートの方はどうかよしなに……」

「うむ、考えておこう」

「ははー!」


そんな風にアホなやり取りをしていると、近くで見ていたアリシアがその様子にくすくすと笑みを浮かべた。


「お二人は凄く仲良しなんですね」

「今日会ったばかりだけどね」

「そうそう。これから仲良くなるんだよ」

「そうなんですか。でも、虎太郎さんが少し妬いてるかもしれませんね」


それは無いだろうと断言出来る。


先程軽く見てきたら、ケイオスの姉と腕相撲をしたり、もう一人の付き添いのケイオス従兄弟に食前酒と称して酒を勧めてたり、その酒を見てケイオス姉と食前酒と言うには度数の高そうなお酒をニヤリと笑いあって楽しんでいたのでそれは無いと言いきれた。


というか、虎太郎の場合、主軸となるのが愛する家族で、その後くらいに友人兼雇い主の俺が来るだろうし、極端に友情に重きを置くような性格でもないだろうから、その心配は無用だろう。


とはいえ、そういう発想が出てくるのだからアリシアは優しい子なのだろうと再度思ったけどそれは今更かな?


「虎太郎殿よりも、アリシアさんが妬いてたりして?」

「そ、そんな事は……」


無いと言おうとして何故か言葉に詰まるアリシア。


その訳に関しては深くは考えないでおこう。


何となくだけど、それは今触れるべきでないと俺の勘が告げているのでそれに素直に従う。


「うんうん、分かってるよ。今日だけシリウスを借りるだけだから、よろしくね」


ニマニマと、実に楽しそうにそうアリシアをからかうケイオス。


「あんまり、アリシアをイジメないように」

「いじめてないよ。でも、シリウスは本当にモテるんだねぇ。正直羨ましいくらいだよ」


アリシアと俺を交互に見ては、それはそれは楽しそうな笑みを浮かべるケイオス。


羨ましいと言いつつ、ケイオスの場合俺とは比較にならないくらいにモテるだろうに。


イケメンだし、性格もまあまあ。


これでモテない訳はないけど……その辺は出自的にも色々あるのだろう。


それに、この後の展開次第だけど、今後は気軽に相手を選べそうもないだろうしそこは同情しておく。


ここに自分から来た以上、ケイオスにはその意思があるのだろうことは明白だしね。

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