第271話 懸念材料

スラムのボスであるダビンと話をつけてから、俺は次の目的地であるヌロスレア王国の王城へと向かっていた。


「しっかし、この国に来てから坊主はすっかり『大聖女様』だな」

「流行ってるのかね?」

「さなあ。まあ、分かるちゃ分かるけど。坊主には聖人よりも聖女って名前が似合うしな」

「嬉しくないなぁ……」


齢10歳になり、少しは大人に近づいてきたのにまだまだ中性的なゾーンから抜けきれてないと指摘されてるようで何とも言えない気持ちにさせられる。


感謝されてるのは伝わってくるけど、男だと知っても聖女と呼ばれるのは解せぬ。


「フィリア達には内緒にしてよね」

「構わんが……どうせアリシアの嬢ちゃんや子供たちから漏れるんじゃねぇか?」

「その時は潔く諦めるよ」

「坊主らしいなぁ」


くつくつと笑う虎太郎。


「そういや、坊主はさっきの病のこと知ってたんだよな?」


婚約者達への口止めをして一安心していると、ふとそんな事を聞かれる。


病……というのは、スラム街の住人達を蝕んでいたあれの事だろう。


「まあ、少しだけね」

「何か気になることがあったんじゃないか?えらく考えてたが」

「鋭いね」

「バレバレだっての。まあ、嬢ちゃん達なら俺よりも早く気づいただろうがな」


我ながら、前世の影響で本心を隠すことはかなり得意なはずなのに不思議と家族や婚約者達にはバレてしまうことがある。


俺のことを想って、気づいてくれるのは凄く嬉しいけど、今回は虎太郎でも分かるくらい顔に出てらしいのでやはり誰もいなくて良かった。


余計な心配させちゃったかもしれないしね。


「愛されてて嬉しくなるよ」

「俺も嫁さんとラブラブだが、坊主の所も相当だよな。んで、何が気になってるんだ?」

「んー、確証がなくて何とも言えないけど……あの病気に関しては人為的なものの可能性も高いかなぁーって」

「人為的ねぇ……」

「あるいは……神意的かな?」


今回、スラムの住人達に広まっていたのは、今世では存在しないはずのウイルスであった。


細菌兵器……と呼ぶと仰々しいけど、前世の英雄時代に一度だけ出くわしたそれは、自然界に元からあるものでも、ましてや人の手で作ることが叶うようなものでもない、超常的な力の産物――いや、災厄と呼ぶべきものであった。


どんなバックがあるにしろ、クーデター時に重ねてそんな事が起きるとすれば人為的……あるいは神のような人ならず者によっての神意的なものの可能性もあるだろう。


俺の敬愛する女神様や、あの男装の麗人の女神様はそんな真似はしないだろうが、何れにしても何かしら目論んでる存在が居るというのは少し気に止めておくべきと言えた。



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