第270話 交渉成立
「王子様、本当にありがとうございやした」
スラムの住人達の治療を終えて、話の続きのためにダビンの家に戻るとまず最初にダビンは深く俺にお礼を言った。
「気にしなくていいよ。たまたま来たついでだし。それに助けられなかった命もあるし」
「いえ、王子様の助けがなければあっしらはもっと多くの仲間を失っていたんですから、感謝しかありません」
そう言って再び頭を下げるダビン。
この世界の強面は仲間思いという特徴でもあるのだろうかと、後ろに控えている虎太郎を見て思ったが、まあ前世でクズいゴロツキを見過ぎたからそう思うだけだろうか。
何にしても、スラムから国中に広まる前に発見と治療が出来たのは悪くなかったかもしれない。
「それで、さっきの続きだけど……俺の話を聞いてくれるかな?」
その言葉にダビンは少し考えるような素振りを見せてから、やがて答えが出たように肩を竦めた。
「王子様の人となりは信じるに値するとあっしは思いました」
「それはどうも」
「あっしだけじゃなく、スラムの連中は今日の王子様から受けた恩義を忘れないでしょう。だから……という訳ではないですが一つだけ約束して貰いたいことが」
「何かな?」
「絶対にこのスラムの仲間たちを安全で真っ当な生活ができるようにしてください。それが呑めるようでしたらあっしはなんでも致しましょう」
何処までも仲間のことを考えての発言のダビン。
今日の騒動でスラムの住人達の俺へのイメージが上がり、話を受けるに値する信用も得られたのだろうが、それでもそうして最後にダメ押しのようにそう頼むのは正しく誠実な男という印象であった。
ただ、少しだけその答えには不足もあるようだけど。
「分かった。必ず約束は果たそう。君を含めたスラム街の人達が皆安全で真っ当な生活ができるように俺から手を回すよ」
「……ありがとうございやす。王子様」
そうして、スラム街に関してはスラムのボスであるダビンとひとまず話がついた。
これでとりあえずスラム街の住人達に関してはある程度解決の目処が立ったと言ってもいいだろう。
下準備がまだあるとはいえ、少なくともここでダビンと話せたのは大きい。
予想外の事態もあったけど、スラムの住人達と直接接することで俺へのイメージも悪くないように伝わっただろうし、ダビンからも信頼を得られたのは結果オーライと言えなくもないかもしれない。
いくつか気になることが出来たが、それは今すぐ確かめずとも後々分かるだろうしひとまずは本日の予定の一件目が無事終わったので一安心という所だろう。
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