第257話 英雄の価値

「あんまり乗り気じゃないみたいだな」

「まあ、マーデリン王国としては無理に国土を増やしたくないんだろうね」


集会まで少し時間があるので、空いてる部屋で待たせて貰っていると虎太朗が先程のビリオンの様子から感じたことを口にする。


「そうなのか?普通は土地を増やした方がお貴族様は喜ぶんじゃねぇか?まあ、坊主みたいな例外は置いといてもだ」

「そういう考え方はしないんだろうね。民の安寧を考える聖人のような考え方がマーデリンの本流なのかも」


敵国であるロダリグア王国の動きを警戒しつつ、圧政で苦しむヌロスレアの民を救いたい……でも、その先でヌロスレア王国を支配するような真似は避けたいというのが本心かもしれない。


少なくとも、ビリオンやマーデリン王国の国王はそう考えてるように思えた。


「政治ってのは面倒な話ばかりだな」

「まあ、俺達には向かないのは確かだね。マーデリン王国としてはヌロスレアはヌロスレアとして自分の力で持ち直して貰えた方が助かるのかもね」

「坊主に期待してるのはそういう意味もあるのか?」

「全くないとは言わないかもね」


俺に旗頭となってもらって、スレインド王国によって支配して貰うプランも多少は考えているのかもしれないが、スレインド王国としてはデメリットの方が大きし、俺としてもそんな面倒事は真っ平御免なのでその期待には答えられないだろう。


向こうとしてもそれはあくまでも淡い期待の一つなので、そこまで期待してるという訳ではないだろうけど、何にしても今夜の集会で何か起こる可能性は高いだろう。


「この国には良さげな相手は居ないのか」

「居たらきっとビリオンが担ぎあげて早々に終わらせていたかもね」


旗頭となりそうな人材を今のところ見つけられてないようだし、そちらの宛もなんとかしないといけないかもしれないが、何にしてもビリオンを死なせないのが最優先かな。


崩れかけているようではあるけど、話を聞く限りではマーデリン王国以外に任せるのは不安だし、今夜のうちにめぼしい不穏分子を炙り出して処理した方がいいかも。


「英雄ってやつが求められそうだな」

「俺が絶対になりたくない仕事ランキング1位がまさにそれだよ」

「そうなのか?まあ、確かに坊主は素で英雄になれそうだからわざわざなろうとは思わないか」


前世で懲りたので、二度と英雄にはならないと決めているし、俺には大切な居場所があるので早々英雄なんかになってられないという本心もある。


何にしても……


「虎太朗、サポートは任せたよ」

「おう、頼りにしてるぜ坊主」


今夜は少し忙しくなりそうだと、虎太朗と笑いあってから、ビケニィが呼びに来るまでのんびりと待つのであった。








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