第255話 ビケニィの上司
拠点にはそれなりに人が居るようだったけど、なるべく人目を避けるルートで案内されたのは、如何にも上役の居そうな少し豪華な部屋。
ビケニィがノックをして入室許可を貰って室内に入ると、30代後半くらいのダンディなオジサマが資料を片手にお茶を飲んでいた。
「ビリオン様。お連れしました」
「ご苦労。ようこそおいで下さいました、殿下。ビリオン・ハイブと申します」
「シリウス・スレインドです」
「今回はお忙しい中お越しくださり誠にありがとうございます。立ち話も何ですのでどうぞそちらへ」
そう言われて客人用と思われる椅子に座ると、自ら俺たちの分のお茶を用意して向かいに座るビリオン。
その風格は正しく貴族なのだが、しかし自分でお茶を入れられるような変わった貴族はそうそう目にすることはないので、意外と油断ならないのかもしれないとも思った。
「ビリオン殿はマーデリン王国の貴族家の当主なのでしょうか?」
「ええ、その通りです。陛下より伯爵位を任されております」
ふむ、伯爵本人がクーデター組織の中枢に居るとなると……予想してたよりもマーデリン王国はガチでヌロスレア王国を建て直したいのだろうと容易に想像は着いた。
「シスタシア国王陛下から連絡を受けた時は驚きましたが、本日殿下が来てくださって心より安堵しております」
「安堵ですか?」
「革命軍……いえ、クーデター組織の内情については部下から聞いてますか?」
「ええ、伺ってます」
派閥争いについては暗殺とまでくれば、かなり面倒事が多めなのは良く分かった。
そんな俺の言葉に同意するように苦笑気味にビリオンは頷く。
「どうにも、此度の一件には様々な思惑が重なってるようでして、私自身、油断しなくても命を取られかねません。本日は大きな集まりもありますので、尚更です。ですので、殿下のような方に状況をお伝えできたのは幸いとしか言いようがありません」
今夜の集まりに何か起こる確率は高い。
最悪、自身が口封じされても、ある程度は俺が情報を持ち帰ってくれれば御の字というところか。
「無論、殿下にご負担をかけるようなことは我らとしても望みませんし、我が命に変えても殿下には無事に国に戻って頂けるように善処いたします。ただ、もしもの時は我らの状況だけは我が主である国王陛下にお伝え頂けると助かります」
「そうですね……出来ることはさせて貰います」
「ありがとうございます」
深く頭を下げるビリオン。
俺としても、孤児院の関係もあって早いとこヌロスレア王国を建て直して貰いたいものだし、出来ることはしないとね。
何より、ここの葡萄は美味しいからもっと平和になれば色んなお店も出来るだろうし、そういう楽しみも含めて頑張ろうかな。
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