第254話 自称ファン

「こちらになります」


いくつかの結界を潜ってから地下にある空間へと案内される。


「ほー、中々大したもんだな」

「殿下には遠く及びませんが、我らにも良き魔法使いが居ますので」

「坊主は規格外だから比べることさえ意味ないけどな」


人外みたいな言い方をされると何とも釈然としないけど……それにしても、確かに魔道具といい、この結界といい、それなりの使い手が居るのは容易に想像できた。


「マーデリン王国の魔法使いは優秀みたいだね。今度紹介して貰えるかな?」

「勿論です。むしろ、我が国の魔法師団長は殿下のファンなので是非とも会って頂けると助かります」

「俺のファン?」


そんな人が居るとは、世の中分からないものだが、生憎と推されるようなことは何もしてない気がするのだが。


「シスタシア王国にて、殿下の魔法を直に見たことがあるそうです。声をかけることすらおこがましいと思える程に感動したそうで、機会があれば是非ともお会いになりたいと言ってましたね」

「へーそうなんだ」


シスタシア……となると、お忍びでの一人歩きか、婚約者とのデートでも見られてたのだろ。


そんなに派手な魔法を使った覚えはないけど、かなりの使い手なら多少の魔法の行使でその相手の実力を察してても違和感はないかな。


ましてや、相手はマーデリン王国の魔法師団の団長とのことだし、その可能性は高そうかも。


「声掛けてくれても良かったんだけどね。でも会うのが楽しみかも」

「少し思い込みの強い方ですが、悪い人ではないと思うので……」


そう言いながら視線を逸らされてしまうけど、どうせなら言い切ってくれた方が良かったけど……まあ、とりあえず害があるようにも思えないしいいかな。


「そうだね。じゃあ、この件が片付いて落ち着いたら会わせて貰うよ」

「お願いします」

「ちなみにそいつは女か?」

「ええ、そうですよ」


そう言った途端に虎太朗が何とも意味深な視線を俺に向けてくる。


その目が実に雄弁に語っている。


『坊主はつくづく女との縁に恵まれてるなぁ』……と。


全く人聞きの悪いことこの上ない視線だが、別に俺は好色という訳でもないし、転生前に流行っていたハーレム系のラノベの主人公ばりにフラグをたててる訳でもないのでそこは勘違いしないように。


そりゃあ、婚約者は人よりも多少多いかもしれないけど、見境なく誰彼構わず囲うような節操なしではないのだよ。


好きになってくれて、俺も好きになれる人じゃないとね。


それに流石にこれ以上婚約者が増えるような事態にはならないだろうし、むしろ虎太朗が嫁を増やしてもいいのでは?と、思わなくもないけど、虎太朗だしきっと今の嫁さん以外は愛さないだろうなぁと分かりきってる辺り、虎太朗とも長い付き合いになってきたものだとしみじみ思った。






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