第242話 変わった店主
街に詳しいアリシアとの街歩きは、俺が見て回った場所よりも更に穴場が数多くあり、非常に有意義であった。
「こちらのお店は富裕層にも人気のある品が揃ってるそうですよ。私達には手が出せないお値段ですが……」
「その割にはひっそりとした場所にあるね」
この情勢で、国としてまともに機能してない無法地帯に近い中でその店は立地的にも物取りなんかに狙われそうに思えるが、その気配のない何とも静かなお店であった。
「ここの店主さんが、やり手なんですよ。国とスラム街の人達に上手く根回ししてるようで、上納金なんかも多めに収めているそうです」
懐が暖かいからこそ出来る策という訳か。
いや、それだけじゃなく、上手く相手の懐に潜り込む交渉術と駆け引きなんかにも精通してそうに思える。
「店主の人柄は?」
「気さくな方ですよ。食料を分けてくださる時もありますし、良い方なんですが……」
「ですが?」
「その……少し特殊な趣味をお持ちというか……」
そんな何とも歯切れの悪い答え方をするアリシアだったが、お店に入るとその意味は良く分かった。
「あら〜?アリシアちゃんがこんな時間にここに来るなんて珍しいわねー?しかも、可愛い子連れてるしー」
口調はのんびりとしたもので、不思議と親しみやすさがあるのだが、声音は本質的には紳士のような深く低い声から放たれる乙女のような高音と、筋骨隆々の戦士の見た目でありながら、フリフリの可愛い系の乙女な服を着ているミスマッチな御仁がそこにはいた。
なるほど、少し特殊というのはこういう事か。
「初めまして、お姉さん。シリウスです」
「ふふ、面白い子ねー。初見で私に驚くどころか平然と女性扱いするなんて」
どこか嬉しそうな様子の店主だけど、確かに見た目は歴戦の戦士のような男らしい外見でありながら、乙女のような様相をしているので、この世界の大抵の人からしたら少し変わってるように思われるかもしれないが、その辺は前世で似たような人を何人も見てきた俺なので動じることは早々ないだろう。
「それにしても、アリシアちゃんが男の子連れてるのは珍しいわねー……ひょっとして、恋人なのかしら?」
「え、あ、いや、それは、そのぅ……」
否定の言葉が出てくる前に照れてしまうアリシア。
この手の話に免疫がないのだろうか?
何にしても、恥じらう様子は実に絵になるとついつい眺めてしまうが、それによって余計にアリシアをアワアワさせてしまったのは正直申し訳なく思った。
「あら?図星だったのかしら?年下の可愛らしい恋人さんでいいわね」
「ち、違うんです!私とシリウス様は別にそういう仲では……」
「そうなの?それにしてはアリシアちゃんったら熱視線を送っていたようだったけど――」
「そ、そんな事は……」
チラッと俺を見てから俯いてしむうアリシア。
そんな様子にますます微笑ましそうにからかう店主さんだったけど、仲良さそうなのは何となく分かったので俺はしばらくお店の商品とアリシアの様子を眺めて時間を潰すのであった。
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