第219話 喫茶店の在り方
「お待たせしましたー」
のんびりと店内を眺めていると、ウエイトレスさんが頼んだコーヒーとサンドイッチを持ってくる。
純白のカップに黒いコーヒーの色合いが何となくお洒落に思えつつ、まずは一口。
久しい苦味だけど、不思議と癖になるからコーヒーとは凄まじいものだと思ったが、その後に広がる豊かな風味に思わず唸ってしまう。
そんな俺の様子にマスターが少し上機嫌になったのは分かったけど、喜び方も渋くてカッコよかった。
ああいう大人になれるといいけど。
そう思いつつ、サンドイッチに手をつけるけどこちらも絶品で唸ると、今度はウエイトレスさんがガッツポーズを取る。
どうやら、サンドイッチはウエイトレスさんの手作りのようだ。
コーヒーをマスターが、サンドイッチをウエイトレスさんがそれぞれ担当してるのかな?
「コーヒーもサンドイッチも美味しいですね」
「ありがとうございます」
嬉しそうなウエイトレスさんとニヒルに一瞬笑みを浮かべるマスター。
「お二人はご家族ですか?」
「ええ、そうです。祖父と私の二人でこのお店をやってます」
「それはいいですね」
「ただ、お爺ちゃん……祖父が、コーヒーしか淹れないんですよ。勿体ないですよね」
拘りのある職人タイプかな?
何にしても、これだけのレベルでコーヒーを淹れられるのだからそれは誇っていいと思う。
「せめて軽食とか、デザートの種類くらいは増やしたいんですけどねぇ……」
そう言われてメニューを見ると、確かにそこまで種類豊富とは言えないかもしれない。
「まあ、ウチのお店は高いから普通の人には敷居が高いのかもしれないんですよね」
「静かで良い雰囲気のお店ですよね」
「お爺ちゃんはそれで良いって言うんですけど、私はもっと繁盛させたいんです!」
静かな隠れ家的なお店を目指したいマスターと、気軽に来てくれるようなお店を目指したい孫娘さん。
なるほど、それは確かに好みは別れるかもしれない。
「ウエイトレスさんはコーヒーの事は詳しかったりしますか?」
「ええ、お爺ちゃんレベルではなくても淹れられますよ」
「それは凄い」
コーヒーの仕入れはそう難しくないし、このレベルのコーヒーが味わえるのはかなりいい。
そうなればやる事は一つだ。
「マスターさん、ウエイトレスさん。少しご相談が……」
こうして今日会えたのも何かの縁と、ウチの領地に引き抜き……というか、娘さん主導のお店を開かないかと話を持ちかけてみる。
このお店も素晴らしいけど、娘さんにマスターさんの教えを広めるようなお店を我が領地に是非と交渉をしてみて、俺の身分やらを明かして色々と便宜をはかると説得することしばらく……爛々とした嬉しそうな娘さんと文句のなさそうなマスターさんの許可を得て、ウチの領地にコーヒーの美味しいお店が出来ることになった。
特産品の白銀桃を使ったタルトやらパフェもメニューとして増えて、そのお店は大繁盛する事になるのだけど、俺としては気軽に婚約者達と行ける新しい喫茶店を開きたかっただけなのは言うまでもないだろう。
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