第3王子はスローライフをご所望

第158話 食いしん坊ダークエルフ

「美味い……このような料理が作れるとは、シリウス殿はもしや天才料理人なのでは？」

「ただの子供だよ。お代わりはいる？」

「頂いてもよろしいでしょうか？」

「坊主、俺もくれ」

「はいはい」

虎太郎と競うようにうな丼を食べるエデルの娘さん。

名前をシエルというらしい。

どこか凛々しさを感じるその様子は、ダークエルフの女剣士という感じだが、今はその体のどこに入れているのか不明な程にお代わりを繰り返す大食いさんへと変化していた。

なんか、シャルティアと相性良さそうだなぁ。

まあ、シャルティアでも流石にここまで食べないとは思うけど、こう気持ちよく食べてもらえると造り手としては悪くない気持ちにはなるよね。

「急いでいたから、ここ最近あまり食べ物を口にしてなかったのですが……しかし、シリウス殿が既に解決して下さったとはありがたい」

空間魔法である転移を最初に見せて、経緯を説明したのだが、思っていたよりもあっさりと納得して貰えたので、少しこちらとしても驚いてしまう。

いくら目の前で転移を使ったとはいえ、こんな子供が既に里のピンチを救ったなど誰に言ってもまず疑わしく思われそうだが……その辺は、俺がただの子供でないというのが分かっているのか、割とすんなりと納得されていた。

虎太郎もだけど、実力者ほどこういう話は信じられやすいのかもしれないなぁ。

「とりあえず、食べたら里に送ろうか？」

「いえ、シリウス殿の話では皆無事なようだし、それは後で構いません。それよりも、シリウス殿に興味が湧いてきたので、色々話がしたい」

「まあ、いいけど……」

ここまですんなり信じられると、こちらが心配になってしまうが……まあ、こういう人の方が案外物事が客観的に見えてるので、余計な心配か。

それにしても、警戒モードの時よりも柔らかい敬語に近い口調……これが素なのかな？

「あと、虎太郎殿でしたか？貴殿とも戦ってみたい」

「ん？俺か？構わんが、坊主とやった方がよくないか？」

そこで押し付けないで貰いたいのだが。

「シリウス殿には絶対に勝てないと本能が言っているので。手加減されても、私ではシリウス殿を退屈させることになりそうなので遠慮しておきます」

その断り方もどうなんだろう。

「それに虎太郎殿は確実に私より格上だと見える。シリウス殿に挑むにしても、虎太郎殿を越えてからの方が気持ちとしても楽というもの」

「まあ、坊主の場合天災みたいなものだし、それは分かるな。なら、腹ごなしの運動でもするか」

おお、虎太郎が珍しくノリノリだ。

自分には及ばずとも、若き才能にワクワクしてる……そんな感じだろうか？

まあ、虎太郎は子供が好きだし、そのうち教師とかの仕事の斡旋もいいかも……いや、手加減が効かなさそうだし、それは不味いか？

そんな事を思っていると、ノリノリの虎太郎の言葉にシエルは衝撃的な答えを返す。

「しばし待って欲しい。まだ私は満腹には遠いので」

……え？体積の5倍くらい食べておいてまだ満腹に遠いの？

遠慮なく食べるこのスタイルは、むしろ好感が持てるが、それにしてもここまで食べるとは……凄まじい食欲とまさしくブラックホールのような胃袋を持っているのだろう。

エデルの娘さん、やっぱり規格外。