第117話 異形の魔物
『ギィーギギ!』
どこか不快な鳴き声と思しきその声と共に、姿を見せたのは全長20メートルはありそうな巨体の蛇と蜘蛛が混じったような魔物……ダークエルフの天敵、ラーニョセルペンティだ。
前世の頃に見かけた個体よりも少し小さいかな?
それにしては、ダークエルフへの悪影響が強すぎる気もするが……ふむ、まあ、世界が違えば個体差も大きいのかもしれないな。
「――ふっ」
その姿を確認した瞬間、隣に居た虎太郎は一足でラーニョセルペンティに接近するとそのまま腰の刀を抜いて一線した。
キィン、と硬質な音を立てる斬撃。
恐るべき速度の攻撃だが、ラーニョセルペンティにはあまり効果を得られなかったのか、虎太郎は一足で再び俺の隣に戻ってきた。
「硬いな。鱗みたいなのが尋常じゃないくらい硬い」
「高値で売れそうで何よりだよ」
全力ではないとはいえ、虎太郎の一撃にほぼ無傷なら武器や防具の素材としては十分。
お金には困ってないが、あるに越したことはないし、俺が使わずともレグルス兄様やヘルメス義兄様に渡せば有効活用してくれそうな代物なので助かる。
『ギィィシャァァ!!』
そんな事を考えていると、その巨体に見合わぬ速度でこちらに襲いかかってくるラーニョセルペンティ。
「虎太郎、受けるなら、そいつ毒あるからそれだけ気をつけて」
「おうよ」
命知らずな虎太郎とは違い、生憎とこんな大きな生き物の一撃をまともに受ける気のない俺は回避を選択するが、虎太郎はむしろ来いと言わんばかりにその場に佇み、ラーニョセルペンティを迎え撃つ。
『ギィィィィ!』
避ける俺を無視して、虎太郎に攻撃を仕掛けるラーニョセルペンティ。
その巨体からの一撃はかなりの質量と威力なのだろうが……
「――っと、流石に重いな」
なんて事ないように、刀の側面でその一撃を受けきる虎太郎。
分かってはいたが、やはり虎太郎もかなりおかしい実力なのだろうなぁ。
俺も似たり寄ったりなことが出来る辺り、同族なのかもしれないが。
『ギシャラァァ!!』
「ん、怒ったのか?」
「虎太郎、多分毒のブレスくるよ」
過去の記憶から、次の攻撃を予測出来たので虎太郎に伝えておく。
「マジかよ、広範囲は面倒だな……坊主」
「はいはい」
虎太郎なら対処も不可能ではないだろうが、俺も少しはお仕事しないといけないと思ったので、転移で虎太郎の前まで移動する。
すると、タイミングバッチリにラーニョセルペンティから放たれる毒のブレスが周囲に広がりそうになるが……それを許すほど俺もお人好しではないので、風の魔法で気流を操って、毒のブレスを球体にして圧縮する。
禍々しいそれは、小さなビー玉のような大きさにまで圧縮したが、さてどうしたものか。
「相変わらず器用だな」
「まあね」
「んで?それどうするんだ?」
「そうだね、これだけなら――」
と、言いかけた時だった。
ブレスを簡単にあしらわれたことで、ご機嫌を損ねたのか、ラーニョセルペンティはその牙を俺に突き立てようとこちらに突っ込んでくるが――
ギン!
見事なまでの虎太郎の受け流しで俺へと一撃は不発に終わった。
「話してる最中なんだがな。無粋な魔物だこって」
「知能はそう高くもないし、仕方ないよ」
「んで、それ本当にどうするんだ?……って、何か色薄くなってね?」
「うん、中和したからもう時期無毒になるよ」
「話しながらそんなこと出来るのか……すげぇな坊主」
「まあね」
下手にこの毒の塊を解放して、他の人に迷惑をかけるのも良くないし、面倒な毒は無害化するに限る。
前世の時に戦った時のこと、わざと毒を受けて成分の解析もしたので、無害化のプロセスも慣れたものだ。
そんな慣れ嬉しくないけど……
『ギィィィィィィ!!!!』
キンキンキンキン、金属を鳴らすようなその音は、ラーニョセルペンティの猛攻とそれを受け流す虎太郎の攻防の音色である。
俺と会話しながら、自然に片手間にラーニョセルペンティを相手にする虎太郎。
とはいえ、会話してる俺よりも虎太郎の意識はラーニョセルペンティに向いてるので、警戒はきちんとしている。
舐めていい相手ではないし、正しい判断だが、表面上いつも通り俺と会話する肝の太さは流石の一言だよ。
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