第116話 敬愛すべきは

「しかし、坊主を疑うわけじゃないが、この石化治るのかね」

「ダークエルフの保存の魔法も優秀だし心配ないと思うよ」


エデルや族長達に見送られて、移動することしばらく。


ラーニョセルペンティの住処の近くで石化している者たちを発見すると虎太郎が問いかけてきたので、俺も改めて状態を確認して答える。


ラーニョセルペンティへの直接の魔法はダークエルフの場合無効化されるが、こうした補助魔法をラーニョセルペンティ以外に使う分にはそこまで制限は大きくないのだろう。


まあ、そうは言っても、全く魔法の効果が衰えてない訳でもないようだが。


僅かに残っている、ラーニョセルペンティの魔力の残滓ですら、魔法に悪影響が出かねない所を見ると、本当に天敵と言うのが正しいのだと実感させられる。


そもそも、1、2ヶ月もの間、この保存の魔法と里の結界を維持してる凄腕のダークエルフの族長ですら、自ら勝てないと判断して守りに入っている時点でそれはお察しなのだが、タイミングギリギリで俺達が来れたのは幸いかもしれないな。


「坊主がそう言うなら信じるさ。それにしても、石化させただけで食うわけでも、壊すわけでもないのは何でなのかね」

「まあ、その辺はこの魔物の創造神の趣味……かな」

「趣味?」

「ダークエルフに絶望を与えたいんだろうね」


ただ殺すのでは満足出来ないのだろう。


ダークエルフのことが嫌いなエルフの創造神は、彼らの苦しみや絶望が愉悦。


故に、あえてそうした習性になるようにラーニョセルペンティを作ったのだろう。


個人的には悪趣味以外には言葉は出てこないが……まあ、俺とは無関係の神様だし、俺には心に決めた女神様が居るので、あのお方の優しさに救われたからこそ、今度はそれを他の人にもできる限り返さないとね。


「神ってのも、存外良い趣味をしてるんだな」

「全員がそうでもないと思うよ」

「何だ、坊主は神様に会ったことでもあるのか?」

「それは秘密」


女神曰く、そのお名前を口にするだけでこの世界に影響が出るらしいし、軽々しくそんな事は口にはしない。


あと、ちょっとした独占欲もある。


今世で芽生えたそれは、俺の婚約者と女神様にのみ適応されるのだが、それだけ他人に入れ込むようになるとは、我ながら変わったものだ。


「坊主が変わってるのは今更だしな。深くは聞かんさ。しかし、この件が終わったらダークエルフの娘さんが坊主の嫁になると騒ぐかもな。英雄的な感じだろうし」

「虎太郎が倒したことにすればいいじゃん。好きでしょ?女の子」

「俺は嫁一筋だから勘弁だな」


こういう虎太郎の性格は割と好ましいが、立役者として英雄の席を譲ることは難しそうだ。


まあ、そういう展開にはならない事を祈っておこう。


大丈夫だって。英雄時代の前世だって、本意で無くても人助けしまくってたんだからさ、その時みたいに次の用事が〜みたいな感じで切り抜けられるさ。


これ以上婚約者が増えても相手出来る気しないし、それに感謝されるほどの事でもないので、出来ることなら平和的に帰りたいものだ。


「坊主」

「分かってる」


俺達の気配を察知したのか、ラーニョセルペンティが警戒してるのが伝わってくる。


ラーニョセルペンティにとっては、自身の感知範囲ギリギリに入ってるかどうかくらいの距離なのだろうが、それでも俺と虎太郎が獲物として認識されたのは間違いない。


「さてと……虎太郎、上手いこと合わせてね」

「おう、足でまといにはならんさ」


何にしても相手は少し面倒くさい魔物なので手早く済むように頑張りましょうかね。








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