第108話 隠し味は

「ほい、即席だけど作ってみたよ。フロストベアーとファイアクロウのシチュー」

「おお!美味そうだな!」


せっかくなので、先程仕入れた素材で即席シチューを作ってみる。


素材が良いから、俺の腕でもかなり美味しく出来たと思われる。


最も、味を分かってるのか分からない速度で平らげる虎太郎を見ていると、本当に美味しいのか判断に迷いそうになるけど……大丈夫、個人のレベルなら上出来なはず。


「坊主は本当に器用だな。料理人でも食っていけるんじゃねぇか?」

「流石にそれは言い過ぎだよ。それに料理は、趣味の範囲で十分だし」


作ってくれる料理人が居るのだし、無理に俺が作る必要もあるまい。


それに、毎日料理なんて前世のようで正直全くやる気になれないし、こうしてたまにやるから楽しいのだろう。


「ほー、まあ、坊主ならどんな仕事でも生きていけるか。ちなみに俺の嫁さんの料理も美味いぞ」

「それ、何回も聞いてるよ」


他人の惚気は、ローザ姉様で慣れてるのだが、虎太郎も地味にそちら側の人間らしく、たまに嫁さんと娘の自慢をされる。


俺もよく知る人達なのだが……まあ、惚気というのは話してて楽しいのだろうし、仕方ないか。


なお、うちの家族の場合、惚気が一番凄いのはローザ姉様で、次に母様、そしてレシア姉様と続いてくる。


兄様達の奥さんの、義姉様達もそこそこなのだが、ローザ姉様の惚気が今のところ一番聞かされてる気がする。


兄様達本人からはあまり惚気は聞いた事ないが、ラウル兄様もレグルス兄様もそれぞれ奥さんを大切にしてるからか、その奥さんからは時々会うと惚気を貰うこともある。


何とも、想われていて微笑ましいものだが、俺の婚約者も俺の事を惚気けてると風の噂で聞いてるので、お相子なのかもしれないな。


「何だろうな、この、どれだけ他の料理人の料理が美味くても、最愛の嫁の手料理の方が美味く思えるのは」

「完全に愛情というスパイスの差だね」


俺だって、婚約者からの手料理の方が王都の高級料理よりも美味しく感じるし、隠し味に愛情があるかによって、最後の決め手が変わってくるのだろう。


「なるほどな。愛は偉大だなぁ……」

「全くだよ」

「ちなみに、坊主はシャルティアの嬢ちゃんとセリアの嬢ちゃんの手料理もその愛情ってスパイスで美味く感じるのか?」

「まあ、それなりにね」


俺の婚約者達の中には、下手すると俺よりも料理が上手い人もいる。


例えば、銀髪美少女のフィリアさん。


俺との婚約から、本来令嬢には不要な料理スキルを磨くこと数年……気がつけば前世の俺の蓄積を超えるレベルの品を作れるようになっていた。


本当に努力家だよね。


冒険者として、あっちこっちに行っていたスフィアもかなり料理の腕が高いし、器用なセシルは勿論、ソルテも中々に器用だし、車椅子のフローラも時間は掛かっても知識があるからか、かなりすごいと思う。


ただ、全員が全員、料理に向いてるとは限らず、それに当てはまるのが、シャルティアとセリアの二名だ。


シャルティアはまあ、不器用ながらも何とか完成させるのだが、ちょいちょいドジって、塩と砂糖を間違えたり、焦げてたりと、何とも微笑ましいが、それよりも酷いのがセリアだ。


意外も意外、器用なセリアは料理だけは向いてないのか、レシピにアレンジを加えて、冒険心を旺盛にした結果、食べるのを躊躇するものを作り上げてしまうが……毒でもないし、食べれないこともないので、俺は一応完食していた。


英雄時代に、ニコニコ顔で美味しい料理やお酒に毒を盛ってた連中とは比べるべくもなく、こちらに好意全開の、少し失敗した婚約者の料理の方が美味しく感じる訳で、姉のスフィアですら躊躇するセリアの気まぐれメニューを食すのは俺の役目であった。


「すげぇな。前に食ったが気絶するかと思うような味だったが……毎回完食してるんだろ?漢だな坊主」

「そんな言う程は酷くないと思うけど……」

「坊主は舌が良いのか悪いのか分からない時があるな」

「それもまた、愛故かな?」

「違いない」


美味そうにシチューを平らげる虎太郎。


まだまだ作ったシチューの量はあるけど、素材のストックも増えたことだし、今度フィリア達にも食べさせてあげるか。


そんなことを思いながら、俺もシチューを食べるのであった。


















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