第106話 虎太郎と狩り
「すまねぇな、坊主。付き合ってもらって」
「気にしなくていいよ。俺も欲しい素材あるし、運動には丁度いいから」
朝食を食べてから、虎太郎の元を訪れると前から頼まれていた狩りに付き合うことに。
狩り……と言っても、領内の森で少し狩りをなんて話ではなく、俺と虎太郎が向かったのはこの大陸で最も過酷な地とされている、エリクシリア山脈という魔物の楽園へと足を運んでいた。
出現する魔物のレベルは尋常ではなく、最高峰の冒険者達ですら無謀と思うその地は、触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに、山脈に入らなければ安全なので放置されているのだが、そこで俺と虎太郎は狩りをしている。
薄々思っていたけど、やっぱり虎太郎も普通の冒険者なんて目じゃないくらいには化け物じみた腕をしてるのだろう。
会話をしながら、高ランクの魔物を片手間で狩っていた。
「にしても、虎太郎って意外とマメなんだね。奥さんにプレゼントとか」
「まあ、最愛の嫁だしな。娘も息子も可愛いがな」
虎太郎をスカウトして領地に連れてきた初日、雇い主の前で行われた口説きは実を結び、虎太郎はあっという間に家庭をつくってしまっていた。
かつて縁あって俺が治癒した女性とその娘さんの心にするりと入った虎太郎は、母親の方を口説きながら娘の方も可愛がって、そのコミュ力を遺憾無く発揮し、気がつけば再婚とこの2年で新しい家族……息子まで作ってるのだから、手が早いものだと思わずにはいられないだろう。
そんな虎太郎の本日の狩りのメインは、嫁さんに服をプレゼントしたいので、いい素材を調達したいということらしく、移動と俺もついでに欲しい魔物の素材があったので共に狩りに出かけていた。
「そっか、俺もそのうち子供が欲しいところかな」
「坊主もそう遠くないうちだろ?まあ、その前に新婚生活の前の同棲とは、肝が座ってるがな」
「そう?まあ、そうかもね」
俺としては好きな婚約者と長く居られるように少し便宜を測った結果でしかないのだが、確かに結婚前に同棲は中々に大胆かもしれないと客観的に見て思う。
「7人だろ?夜の相手が大変そうだな」
「虎太郎は嫁さん増やす気はないの?」
「おいおい、坊主。俺がそんなに色に染まってるように見えるか?」
「見た目は女好きそうだけどね」
侍の強面でガタイのいい虎太郎は、コミュ力が高く、初見の印象では女遊びが激しそうに見えるが、本人の様子は完全に純愛派のようで、嫁一筋であった。
悔しいが、男としてカッコイイと思ってしまうくらいには、潔かった。
「まあ、多少遊んでいた時期はあったがな、子供も居るし、今の生活は楽しいから不満はないぜ」
「それなら良かったよ」
「それより、坊主はもう時期学園とやらに行くんだろ?フィリアの嬢ちゃんもだったか。というか、学校でそんな歳で行くものなのか?」
「飛び級ってやつだよ。魔法科にフィリアと通うけど、そこで優秀な人材を探すつもり」
何かあった時のためにも、広く人材を探すのは決して無駄にはならないし、うちで仕事がなくても、父様や兄様の助けになるような人材なら、紹介もしますい。
当初は魔法科のみに通うつもりであったが、何日かは貴族科などにも顔を出すことになっていた。
まあ、学園で学ぶことは俺もフィリアもそんなにないと思うので、学園に行くのは人材探しと将来のための布石でしかないのだが、何にしても楽しみではある。
「ほー、まあ、何にしても留守の間の嬢ちゃん達のお守りは任せておきな」
「うん、そこは信頼してるよ」
虎太郎の実力は前世の英雄時代の俺基準でも、相当に高いし、この2年ほどの付き合いで信頼もしている。
俺の婚約者達や、領民達を守る用心棒としてはこれ以上ないと言える貴重な人材であった。
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