第97話 空の広さ

『わぁ……!凄い……!』


少しテンション高めに、嬉しそうにしているソルテ。


その理由は、間違いなく今の状態の結果であった。


『だね、流石クイーンだよ。この光景は久しぶりに見たけど中々いいものだね』


久しぶりにペガサスのクイーンに乗っているのだが、いつものマスコット状態から本来の聖獣である巨体になると、迫力も神々しさも段違いであり、そしてクイーンで翔ける空は、何とも清々しく、心が晴れるような光景であった。


かなり速く走っているが、俺の魔法でソルテへの負担はほぼ皆無になっており、だからこそこうして過ぎ去る景色と空を見ながら進めているのだが、心做しかいつもよりクイーンの速度が速い気がする。


やっぱり、久しぶりの出番で嬉しいのかな?


ちなみに、ユニコーンのナイトでも良かったのだが、ナイトはセシルがシャルティアを宥めるのに使うと言っていたので置いてきた。


何気にシャルティアの一番のお気に入りがナイトだから、上手いことマスコットになっているのだろう。


『ご主人様のお友達は凄いですね』

『そうだね』


純真な笑みで褒められると悪い気はしない。


ペガサスのクイーン以外にも候補は居たが、空を翔けるならクイーンが一番なので、任せて安心であった。


ちなみに、そんな俺達のやり取りで少しドヤっているのが俺の頭の上に居るフェニックスのフレイアちゃんで、先程までは自分の活躍が無くてしょげていたのにすっかり立ち直っていた。


思えば、フレイアちゃんを今世で本来の姿に戻したことはあまり無いような……まあ、ペガサスやユニコーンでも大騒ぎなのに、フェニックスなんて出てきたらガチで大変な事態になるので仕方ない。


仕方ないのだが……なんだか、最近フレイアちゃんが小鳥状態に慣れたのか俺の頭の上に居るのが日常になっていたが、それはそれ。


『あ、ご主人様。今の鳥さん可愛かったですね』

『そうだね』


景色を見ながら楽しげに声をあげるソルテ。


こうした事で少しでも前向きになれるのなら、これからはこういう機会も増やせればいいかもしれないな。


『空って、こんなに広いんですね……』


少し落ち着いて来た頃に、ふとソルテがそんなことを呟く。


『なんだか、ご主人様みたいです』

『そう?』

『はい……大きくて、優しい所がそっくりです』


俺はそんなに大きくて優しくはないが……ソルテにそう思われているのなら、もう少しそちらにも頑張ってみようかな。


『なら、ソルテは俺にとっての太陽かもね』

『太陽ですか?』

『明るく笑って欲しい人ってことかな』


そう微笑むと、どこか照れたように俯くソルテ。


婚約者達は大抵そのポジションかもしれないが、少なくとも俺はこの子には笑っていて欲しい。


これまで大変だったのだから、これからは心から笑えるような人生にさせてあげたい。


そして、その隣に俺が居るのかは分からないが……ソルテが望む限り、側に居たいものだ。


俺の手で笑顔にさせてあげたい……ソルテは既に俺にとって大切な存在となっているのだろうと、改めて認識する。


『ソルテ』

『は、はい……何ですか?』

『……いや、何でもないよ』


言葉にしようかと思ったが、まだまだ先程の言葉の影響を抜けきれてないソルテに追い打ちをかけるほど鬼畜にもなれず、言葉を濁して軽く頭を撫でる。


その突然の行動に驚きつつも、嬉しそうにするソルテは、やっぱりまだまだ甘えたい盛りなのだろう。


それもそうか。


甘えたい時期に親と最悪な形で別れて、その後に過酷なことが日常だったのだから、当然愛に飢えてても仕方ない。


俺も同類だったから分かるけど、女神様やフィリアに救ってもらったから、今の俺がある。


だから、今度は俺がソルテを救う番だろう。


自分でも不思議なほどにメンタルがアホな俺とは異なり、繊細で優しいソルテは救われないといけないだろう。


叶うなら、それは俺の手で叶えたいものだ。


そうして、しばらく空の旅を楽しむのだが……ソルテが見てないところで何度か転移を繰り返して短縮を図っていたが、ソルテに気づいた様子はなかった。


まあ、飽きる前には着かないとね。


最も、ソルテの様子から当分は飽きとは無縁そうだが……うむ、空のデートと考えると悪い気はしないので、他の婚約者とも今度しようかな。


フローラとは前にもしたことはあるけど、晴れてる日のデートも楽しそうだ。


楽しみが多くて嬉しい限りだよね。















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