第78話 メイドは見た

『ご主人様!』


領主館に戻ると、ソルテが心配そうに俺に駆け寄ってきた。


ソルテに留守番を頼んで半日程度しか経ってないのだが、離れてる時間心配させてしまったようだ。


『お怪我はありませんか?』

『ただいま、ソルテ。心配させてごめんね』

『いえ、ご無事なら……』


少しうるうるとしているソルテ。


こういう所が、放っておけないんだよね。


そう思って頭を撫でると嬉しそうにするソルテ。


こんな風に和む時間はいいよね。


「シリウスくん、エルフ語も話せたんだね」


そうして、ソルテで和んでいると、俺の後ろからひょっこりと顔を出すセリア。


突然の見知らぬ人に少しビクッとして、俺に隠れるように身を寄せるソルテに宥めつつ俺は軽く紹介をすることにした。


『ソルテ、この人はスフィアの妹のセリアだよ』

『初めまして!ソルテちゃんでいいのかな?私、セリアっていいます!』


明るくそう自己紹介をするセリア。


コミュ力の高さは姉妹揃って限界突破してそうなレベルだよね。


俺にも分けて欲しいくらいだ。


『は、はじめまして……ソルテ……です……』


ギュッと、俺の服を握りつつも、なんとか挨拶をするソルテ。


エルフとはいえ、やっぱり初対面の人と話すのはまだ緊張するようだ。


まあ、この子のこれまでの境遇を思えば、仕方の無いことだろう。


これから、ゆっくり傷は癒すとしよう。


「……シリウス様、お帰りなさい」


そんな風に4人で話していると、ソルテより少し遅れてセシルが出迎えにやってきた。


そのセシルは俺の隣にいるスフィアとセリアを見てから、少し考えて納得したように頷いた。


「……なるほど、シリウス様は手が早い」

「大いなる誤解だと思うよ……まあ、それはともなく、ただいま、セシル。こっちは大丈夫だった?」

「……問題ない。ただ、ソルテとシャルティア凄く不安そうにソワソワしてた」

「そっか、それでそのシャルティアは?」

「……警備兵達に稽古をつけてる。そうでもしないと1人で抜け駆けするかもしれないから」


色々と心配かけてたようだ。


まあ、でもこうして心配してくれる人が居るのは有り難いことだよな。


なるべく心配はかけたくないけど、大切に思われてるのは素直に嬉しい。


「……それで、その2人は新しい婚約者?」


……おかしい、来客とかそっちの発想はないのだろうか?


俺が連れてくる女の子=婚約者みたいな感じに思われるのだろうか?


いやまあ、前科が無くもないが……もう少し、クリーンな印象を持って貰えるよう頑張るか。


「この2人は、今日から俺の元に来て貰ったスフィアとセリアだよ。しばらくはこの領主館のことを任せようかと思ってね」

「……なるほど、確かに必要かも」


現在、この領地は代官を立てては居てもどこも人手が足りない。


領民の皆の協力で治安自体はとても良いし、俺も結構頻繁に領地に来てるのでそこまで目立った問題はないが、色々と物騒な存在も確認されている昨今、俺が居ない間に何かあっても対処が出来る人が居るに越したことはないだろう。


スフィアの実力は地下遺跡攻略で確認済み。


そして、セリアに関しても、帰りの道中の様子から問題ないと判断できた。


元々は病弱だと言ってたが、ホムンクルスの性能のお陰なのか、それとも元々のセンスなのかすぐに今の身体に馴染んでるので姉妹揃ってハイスペックさを遺憾無く発揮していた。


信頼出来る人は多くて困ることは無い。


俺が学園に入ってから卒業するまでは少し大変かもしれないが、その後は俺も本格的に領地で暮らす予定だし、2人のような有能な人材は是非とも欲しかったのだ。


「……それで、後々は側室?」

「そういうこと」

「うん!よろしくね!」


……このペースで行くと俺は今世は何人の嫁を得るのだろうか……まあ、2人のことは嫌じゃないし、むしろ好感が持てるけど、何となく他の俺の婚約者に悪い気がしてしまう。


その婚約者の1人のセシルは納得したように頷いているのだが……いいの?本当にいいの?


いや、まあ、2人の冗談の可能性もあるし気にしちゃダメだな。


そんな風に俺は疲れを悟られないようにしながら平穏へと再び戻るのであった。









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