第65話 報酬

「シリウス、来たね」


商品のある裏へと向かうと、護衛を連れたヘルメス義兄様とレグルス兄様が既に来ていた。


既に先程の司会の男を含めて会場の全員がヘルメス義兄様が用意した騎士に捕らえられていたようなので流石だ。


というか、わざわざ自分が出向いてきたのか。


「兄様達も来たんですね」

「ほとんど空振りだったけどね」


その言葉を聞くと、闇オークションの主催者はこの場に居なかったのだろう。


逃げたにしては早すぎるし、ヘルメス義兄様の包囲網を抜けたとも考えにくい。


トカゲの尻尾切りにならなければいいけど……


「それで、シリウスは気になるものはあったのかな?」

「いくつか。でも、とりあえずハーフエルフの少女とその他にも人がオークションに出てたのでその人たちを保護しましょう」

「ハーフエルフに人までとはねぇ……全く、気分が悪いよ」


ヘルメス義兄様の言葉にレグルス兄様も頷く。


保護した人達に詳しい話を聞くと、女性2人は故郷も家族も居るそうで、拉致られたというのが真相のようだ。


そして、その他は……まあ、あまりいい話は聞けなかった。


家族を奪われて、攫われた者。村から生贄として差し出された者、気が滅入りそうになる話ばかりなのだが、ハーフエルフの女の子はきっとそれ以上なのだろう。


というか、こちらの呼び掛けにも応じられないほどに衰弱していた。


流石に不味いので俺が治癒魔法である程度回復させるが……怪我や生傷、栄養もまともに取れてないようだし、見ていてとても痛々しいが、それらを消しても意識は戻らなかった。


無理やり起こすのもあれだし、起きてからかな?


「シリウス、悪いけどあの娘は任せていい?」


そんなことを考えていると、ヘルメス義兄様からそんなことを言われる。


まあ、それ自体は想定内だ。


「まあ、そうなりますよね」

「まだウチの国では、ハーフへの偏見も根強くてね。スレインド王国の方がいいだろうし」


比較的、その手の偏見はウチの国の方がマシだろういう判断は俺も歴史なんかを調べてみると分かってしまう。


それでもまあ、多少マシ程度かもだが、多分他の国だともっと酷いだろう。


それくらいハーフは疎まれる存在……というのが、この世界での悲しい現実というやつらしい。


まあ、俺としてはそんなくだらない事情に呆れてしまうのだが。


偏見とは、面倒なものだ。


「まあね、それにシリウスは変わり者の第3王子って思われてるから、今更女の子1人増えても文句を言う奴は居ないだろうしね」


レグルス兄様の言い方だと、嫁が増えるような感じにも聞こえなくはないのは、俺の心が汚れてるせい?


まあ、別に変わり者っていうレッテルはどうでもいいけど。


故郷や家族に返せればいいが……多分、それを叶えるのは難しいだろう。


物理的な意味でも、捨てられたか親を亡くしてる可能性の方が高いし……はぁ、まあ、その辺は女の子が起きてからかな。


「とりあえず、了解しました」

「頼むよ。後は、何か気になったものはある?報酬代わりに渡せるものは渡すよ?」


ほとんど全て国で回収するのだろうが、アンデッド退治とこのオークションの情報の報酬で欲しいものがあれば何かくれるらしい。


「じゃあ、スカイドラゴンの魔石と鱗いいですか?」

「構わないよ」


スカイドラゴンとは、空色の鱗をした空中戦最強のドラゴンだろう。


雲の上に生息しており、飛行手段が無いと倒すどころか会うことすら叶わない存在だ。


まあ、俺は別にいつでもこんにちはを出来るのだけれど、スカイドラゴンの状態もいいし、これをフローラの指輪にしてもいいかもしれない。


他に、もっと良さそうなスカイドラゴンを見かけたらそっちにするが、その場合は他のアクセサリーにすればいいし、使い道はある。


「にしても、随分とどの商品も状態がいいね。余程高ランクの冒険者とか魔法使いが居るのかな?」

「かもしれないね。全く、頭が痛いよ」


ハーフエルフの女の子を先に俺が借りてる城の自室へと運ぶと、そんな会話をしている兄達。


シスタシア王国だけでなく、スレインド王国からしても、敵側にミスリルゴーレムやらスカイドラゴンやらをほとんど無傷で倒せる存在が居るのは困りものだろう。


ため息をつく2人に同情しつつも、俺は欲しいものをいくつかチョイスしておく。


俺からしても、何れは立ち塞がる可能性があるので他人事ではないが、ヘルメス義兄様やレグルス兄様達は優秀なので自分達で処理する可能性も高いと思っている。


「シリウス、後はいいのかな?」

「ええ、ありがとうございます」

「少ない報酬だけど、また今度別の形でお礼するよ」

「いえ、この国には婚約者のフローラも居ますし、気にしなくていいですよ。嫁いだら分かりませんけど」

「ふふ、そうだね」


そんな会話をしてから、俺はシャルティアを連れて城へと戻るのだった。


ちなみに、シャルティアが気にしていた憎悪の盾などの呪われた武器はサラッと光の浄化魔法で浄化して無害にしておいた。


強くても、デメリットが多すぎるし、呪いの武器はいわく付きの物が多いので、気休めでも祓ってあげないとね。


そんな俺の行動に気づいた者はほとんど居なかったが、シャルティアだけは何故か気づいたのか嬉しそうな表情をしていた。
















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