第63話 てるてる坊主

翌日になれば、少しは雨も収まるかと思ったが、なかなかに止まない雨で、本日も観光は難しそうだ。


婚約者達とのんびりするのは、俺としては楽しいのだが、どうせなら外の観光もさせてあげたいものだ。


魔法で天候を操ることも不可能ではないが、見られると面倒事になるのは必然なので止めておく。


「……シリウス様、それは?」


お茶を楽しむフィリアとフローラの姿は、何とも優雅で美しいので、チラチラと横目に見ながら作業していると、俺の手元を見てセシルが首を傾げていた。


「ん?てるてる坊主だよ」

「てるてる坊主……ですか?」


シャルティアも不思議そうに俺の手元を見ていたが、そう、俺が作っていたのはてるてる坊主。


雨なんかが続くので、手慰みに作ってみた。


「……可愛い」

「作ってみる?」

「……難しい?シャルティアでも出来る?」

「私を基準にするな!」

「んー、まあ、結構簡単だよ」


そう難しい品でもないし、少しこの手のことが苦手なシャルティアでも余裕で作れるだろう。


フィリアとフローラも興味を持ったようなので、4人の婚約者とてるてる坊主作りをする。


真っ先に完成させたのはフィリアとセシルだった。


それに続いてフローラと、少し遅れてシャルティアも完成させるが、シャルティアはあんまりこういうのは得意ではないようで、少しだけてるてる坊主の顔が歪ではあった。


「それで、これを吊るしておくといいよ」

「吊るすのですか?」

「何かのおまじないでしょうか?」


キョトンとするフィリアとフローラ。


結構近いので頷いて答える。


「まあね、こうしておくと晴れやすくなるんだよ。逆さに吊るすと逆に雨が降りやすくなる」


何度か、逆さてるてる坊主で山登りを回避しようとしたが、俺の場合それをやったら逆に雲ひとつない青空が翌日には確約されていたので、おまじないも何もなかった。


そういえば、童謡でてるてる坊主の歌ってのもあったなぁ。


確か、3番の歌詞の最後で晴れないと首をちょん切るという部分があって、てるてる坊主が吊るされてる様子と相まってこれはきっと生贄の儀式なのだろうと思っていたものだ。


「シリウス様は物知りなんですね」

「まあ、少しだけね」


フローラからの尊敬気味の眼差しが少し心に痛いが、まあ、別にこれが広まることはないだろうしいいなかと納得しておく。


その後は、女性陣は各々てるてる坊主を可愛くしていくが、スペックが高いフィリアと、手先が器用なセシル、そして、センスの良さを発揮するフローラと各々個性が出ていたが、シャルティアは得意ではないのか、ベーシックな、てるてる坊主で満足していた。


まあ、俺もてるてる坊主をカスタマイズするつもりは無いのでそれをのんびりとお茶を飲みながら見守っていた。


幼稚園とか保育園とか、あとは……小学校の低学年かな?


その辺なら、こうして皆でてるてる坊主を作ってる光景も珍しくないのかもしれないな。


まあ、学校なんてほとんど通わせて貰えなかったから、テレビとかネットでの知識だけど。


俺の領地にある孤児院では、たまに俺も先生役なんかをするが、こういう遊びも教えることがある。


普通に読み書き計算なんかも教えるが、その辺は自分の頑張りがものを言うだろうし、ある程度の年齢の子供には孤児院の先生が教えてるそうだから大丈夫だろう。


「シリウス様、本当に今夜行かれるのですか?」


婚約者達を微笑ましく見守っていると、こっそりと他の婚約者に聞こえないように小声でそう尋ねてくるシャルティア。


シャルティアには今日の夜に行われる闇オークションに付き添って貰うことにしたのだ。


婚約者をそういう所に連れてくのはどうかと思うかもしれないが、フィリアやフローラは連れて行けないし、セシルも2人の護衛で残ってもらうので、シャルティアが1番連れて行きやすかったりする。


まあ、もちろん、シャルティアに危害を加えるような奴が居れば全力で守るが、シャルティアの実力は元Bランクの冒険者であり、俺の元に来てからは騎士団長に鍛えてもらってさらにレベルアップしている。


子供1人では何かと目立つし、どうせなら俺の騎士を連れてく方が気持ち的にも楽でいい。


なので、シャルティアをお供にする事にしたのだ。


1人でもいいのだろうが、ここ最近ぼっち行動が多かったのでそろそろ誰かしら連れていきたい。


「まあね、それに会場のこととか兄様達が何とかするだろうし、俺はただの見物だよ」


それに、何か珍しいものがあるかもしれないし、見ておいて後で国で回収する時にアンデッド退治の褒美として貰うことも出来る。


まあ、別に報酬とか居らないけど、優先的に気に入ったものが手に入るのなら遠慮することもないだろう。


「……シャルティア狡い」


ポツリと呟くセシル。


フィリアとフローラには聞こえない程度の声だが、それに対して俺は「今度はセシルを誘うから」と答えて納得させる。


知らないフィリアとフローラにもおいおい埋め合わせはするとしよう。


そんな感じでその日は夜までのんびりとすごすのだった。




















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