第60話 お手玉
フローラと添い寝をした次の日。
気持ちいい目覚めだったが、外は生憎の雨。
せっかくフローラの車椅子も出来たのに、婚約者4人との観光は難しそうだ。
相合傘のチャンスでは!
なんて、思うかもだが、露店は全滅だろうし、何より傘はあっても全員で入るのは不可能なので、止めておく。
なるべく平等にしたいところだが、やっぱりバランスを取るのは難しいものだと思いながら、俺は現在針仕事をしていた。
「シリウス様、何を作ってるのですか?」
「……相変わらず器用。シャルティアと比較するまでもなく」
「う、うるさい!お前もだろ!」
「シリウス様は器用なのですね」
……まあ、婚約者4人に見守られながらだが。
とはいえ、そう難しいものを作るつもりはない。
先日手に入れた小豆……勿論、料理にも使えるが、俺は別の使い方も知ってる。
食べ物を粗末にするのは許されることではないが、この使い方はありだろう。
まあ、この説明だけで分かる人は分かるかもしれないが、俺が作ってるのは前世は日本の昔懐かしい遊具だ。
「よし!出来た!」
完成したのは、小豆を入れた丸い布袋……うん、説明が難しいね。
もう答えを言うと、お手玉だ。
近年は、小豆に虫がわくかもと、ビーズやペレットなんかを代用品にしてるそうだが、古来よりお手玉といえば小豆辺りがメジャーだろう。
ポンポンと、握り心地を確かめていると、婚約者達は不思議そうな表情でそれを見ていた。
うん、悪くないね。
早速、試しに3つほど回してみるが、思いの外コツは覚えていたようで綺麗に手と空中を行き来する。
「あの、シリウス様。それは一体……」
「お手玉っていう、遊び道具かな。握ってるだけでも楽しいけど、こうして何個かを回して遊ぶものでもあるよ」
そう説明すると、セシルとフローラが興味があるのか視線を輝かせていた。
「……やってみる?」
「……うん」
「私も、やってみたいです」
そう言う2人にお手玉を渡す。
「……なるほど、大体分かった」
俺の説明ですぐに真似してみせたセシル。
何気にこの子って凄いよね。
「あぅ、難しいです……」
反対に、フローラは少し苦戦していた。
まあ、俺も最初どうやって綺麗に回すのか理解できなかったし、気持ちはわかる。
「フローラさん、頑張ってください」
「はい、ありがとうございます、フィリアさん」
うん、やっぱり距離が縮まってるようだ。
思えば、年頃も近いし仲良くなりやすいのかもしれない。
婚約者の仲が良いのはいい事だしね。
特に女の子の友情はいいものだと思える。
……まあ、きっと前世でドロドロしたものをいっぱい見たからこそ、そう思うのだろう。
表面上は仲良さげでも、裏ではボロくそ言ってたりする人も多かったし、女性とは難しいものだと思うのには十分だったのだろう。
フィリアとフローラ、セシルとシャルティア、彼女らにはそれが無いのも俺的にポイントが高い点だろう。
まあ、人間なんだし好き嫌いは仕方ない。
でも、やっぱり平和が1番だし、無駄な争いは無いに越したことはない。
時には喧嘩も必要なのだろうが、それも本当にタイミング次第。
人間とはかくも難しい生き物だ。
「……シリウス様、これも売るの?」
「まあ、母様に見つかったらそうなりそうだね」
どうやってかは分からないが、母様は俺が新しいものを作ったりするとすぐに発見してくる。
あの勘の良さというか、嗅覚の鋭さは一体……とも、疑問に思うが、女の勘というやつなのだろうか?
女性には、特別な勘があるという。
現に、それが当たることもあるので、俺はそれなりに信じてはいるが、男からすると女性という生き物が不思議な存在なのは間違いない。
「おや?シリウス、それは何かな?」
部屋を訪ねてきた、レグルス兄様がそんなことを聞いてくる。
「お手玉ですよ、レグルス兄様」
「新しい玩具かな?また、母上が売りそうだね」
「それで、どうかしましたか?」
「ああ、少しね」
チラッとドアの外を見るので、その動作で納得して席を立つと俺は婚約者4人に席を外すと告げてからレグルス兄様と部屋を出た。
「わざわざ、すまないね」
「いえ、何か緊急ですか?」
近くに誰も居ないことは感知魔法で確認済みなので、そう聞く。
レグルス兄様も俺がその手の魔法を使えると知ってるようで、頷いて答えた。
「少しね。この雨で騒ぎにはなってないけど、このシスタシアの王都の近くで複数のアンデッドが確認されたらしい」
「なるほど、では退治してくればいいのですか?」
「頼めるかな?一応神官たちを待機はさせてるけど、まだ王都に着く前で今のところ交戦してなく被害もない。シスタシア王国とは今後も良い関係でいたいし、子供のシリウスに頼むのは悪いことだけど、1人でも守るために助けて欲しいんだ」
そんなことを言う兄様だが、別に断る気も無かった。
シスタシアは婚約者であるフローラの居る国。
それを守るのに抵抗はない。
ただ、これだけは言っておく。
「俺がやったことは勿論内緒ですよ?」
「分かってる。頼めるかな?」
「勿論ですよ」
魔力も回復してるし、アンデッド退治ならさして手間でもない。
それからすぐに準備して俺は王都の外へと向かうのだった。
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