第50話 絶品パン屋さん確保

シスタシア王国の王都、その往来を1人で歩くのは誰か……そう、俺です (キリッ)


……分かってるよ?カッコよくはないよね。ごめんなさい。


本当なら婚約者と回りたいが、それは後日でもいいだろう。


俺の場合は護衛は必要ないし、幻惑の指輪を付けており、目立つことはないだろうが、用心はしておく。


「おじさん、リンゴジュース頂戴」

「おう!毎度!」


名産らしい、リンゴジュースを購入して、鹿の肉の串も買って食べつつぷらぷらする。


「あ、このジュース美味しい」


流石に名産ともなると、レベルが違った。


これは大量に購入しないとな。


「こらー!待てー!」


そんなことを考えていると、何やら前方で声がする。


見れば、老人が持ち物をひったくられたようで、犯人の男がこちらに突っ込んできた。


盗みは良くないよ?


明らかに逃げ切れると思ってる男に睡眠魔法を使って眠らせる。


すると、走っていた男は糸が切れたように転がってからその場に倒れ込んだ。


「はぁはぁ……どういうことだ?」


首を傾げつつも荷物を回収する老人と、男を捕らえる兵士。


そんな彼らスルーして俺はゆっくりと景色を堪能していく。


ふと、パンの焼けるいい匂いがしてくる。


ふらふらとそちらに向かうと、小さいお店から出来たてのパンのいい匂いがしており、迷わず中に入る。


「あ!いらっしゃいませ!」


俺より年下だろうか?


可愛らしい店員さんだが、この店の娘さんかな?


「匂いにつられて来ちゃったんだけど……パン買えるかな?」

「はい!色々ありますよー」


おすすめされたものをいくつか買うと、俺は店の外で食べる。


――瞬間、俺の体に電撃が走る。


こ、このモチモチ加減……なんて素晴らしいんだ!


出来たてとはいえ、こんなに美味しいパンは初めてかもしれない。


夢中で買った分を食べるが、どれもこれもレベルが高い。


ふぅ……世の中はまだまだ広いんだなぁ……


そう思って俺は店に戻ろうとするが――


「やめてください!」

「おいおい、返済は今日までだろ?払えない時の約束は守れよなぁ」


――そこで、思わず嫌悪感を丸出しにしそうになる。


店の前には複数のガラの悪い男達。


そして、先程の接客してた女の子を守ろうとしてる女性の姿。


「あんたの夫の借金の返済は今日まで。払えないならあんたと娘の体で払って貰う……そういう約束だよなぁ?」


ニマニマして、ゲス顔をするリーダーらしき男。


あえて言おう……ゲスでしかないと。


借金のかたに女性に体で返済を求める……しかも、俺と同じくらいの子供にもってロリコンさんなのかな?


いや、それはロリコンさんに失礼か。


彼らは、愛でるだけで触ったりそういう事を求めたりはしない (と、最初の前世の同期が熱く語っていた) ので、同列は失礼か。


にしても、分かりやすい状況だこと。


「まだ今日の商売は終わってません!それに、私だけのはずで、娘は関係ないじゃないですか!」

「そうはいかねぇな、払えないならガキでも容赦しないってのがウチのルールなんだよ」


はぁ……全く。


胸糞悪い所に遭遇したな。


下品な笑いをする取り巻き達と女性の手を掴もうとするリーダーらしき人物。


だが、それは次の瞬間どさりと唐突に彼らが倒れたことで周囲はざわめく。


遠巻きに見ていた人達は、助けることはしないだろう。


まあ、結論から言えば俺が睡眠の魔法で眠らせたのだが。


こんな美味しいパン屋さんを見殺しにしたくないし、女性や子供には優しくが俺のモットーだから。


あ、男でも善人になら優しくするよ?


「大丈夫?」


いきなりのことに驚く母娘に俺は近寄ると話しかける。


「えっと……はい……」

「それなら良かった。ところで、借金がどうって言ってたけど、それって本当に払わないとダメなものなの?」

「いえ……」


話によると、生前に女性の夫が騙されて背負わされたものらしく、彼らに逆らう訳にもいかずになんとか返そうとしたそうだ。


金額からして一般人の稼げる額ではないが……それが狙いなのだろうな。


「逃げるって選択肢は?」

「夫の店を守らないとダメだったので……娘だけでもどうにか逃がしたいのですが……」

「なるほどねぇ……ちなみに、店を守るって店自体を?それとも店の味とか雰囲気とかそういうの?」


前者ならどうしたものかと思ったが、幸いなことに後者らしい。


ならば、やる事は一つかな。


「それなら、俺の領地に来ない?」

「領地って……そういえば、君は一体……」


俺はその問に微笑むんと、女性に近づいて小声で名乗る。


「俺の名前は、シリウス・スレインド。スレインド王国の第3王子で、領地持ちの貴族になる予定なんだ」

「第3……王子?」

「そう、ここのパンを気に入ってね。是非俺の領地で作って欲しいんだけど……どう?」


いきなりのことに困惑する女性だが、「でも店が……それにお金もないですし……」と呟く。


「その辺は任せて欲しいかな」

「あの……どうしてそこまで……?」


本気なのが徐々に伝わったようでそう聞かれた。


もちろん答えは一つだ。


「美味しいパンを作れるパン職人と看板娘は大切だからね」


俺の言葉に赤面する少女と、唖然とする女性。


その後、男たちが起きる前に、荷物を纏めて貰って俺の領地に瞬間移動して新しい店の候補地としばらくの仮住まいを準備するのに時間を要して目的は達成できなかったが……まあ、優秀な職人と看板娘を手に入れて万々歳だ。


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る