第32話 折り紙
本日は、フィリアの家で2人でゆっくりとお茶を楽しんでいた。
たわいないことを話して、穏やかに過ぎていく時間……2度の前世で求めてやまなかったものが、そこにはあった。
うん、いいねぇ、素晴らしいよ。
そんなことを思っていると、ふと、無地の紙が机の上にあるのが見えて閃いた。
「フィリア、この紙使っても大丈夫?」
「えっと、はい。大丈夫ですよ」
文字でも書くのだろうかと思ってそうなフィリアだが、俺が紙の大きさを正方形にするためにナイフで斬ると違うと分かったようだ。
後ろで控えてる、シャルティアやセシルも何をするのか俺の手元に視線を向けていた。
そんな好奇の視線を受けつつ、何千と作ったそれをすぐに完成させた。
「わぁ……!凄いです!鳥さんでしょうか?」
「まあね、鶴って鳥だよ」
そう、俺が作ったのは折り紙……しかも定番中の定番の鶴だ。
最初の前世の時、旅館では子供のお客様の心を掴むために、こういう技術も身につけさせられたもので、鶴に関しては多分忘れることがないレベルで作ったのを思い出す。
千羽鶴を何回作ったことか……嫌だ!もう紙みたくない!
……なんてこともあったけど、折り紙に罪はない。
諸悪の根源はブラックな労働体制と前世の親にあったと考えるべき。
なお、2度目の人生は国と、姫様に凝縮される見込み。
思い出すだけで、震えてしまうので、俺の癒しである女神様の顔とフィリアという可愛い婚約者のリアクションで和む。
ちなみに、セシルとシャルティアの興味深そうな反応も好きです。
「フィリアも作ってみる?」
「えっと……私にも出来ますか?」
「コツさえ分かれば簡単だよ」
「じゃあ、少しだけ……セシルさんとシャルティアさんも一緒にどうですか?」
思わぬ誘いに驚く2人だが、セシルが少し困惑気味に聞いてきた。
「……えっと、よろしいのでょうか?」
「はい、構いませんよ。それに、お二人とは仲良くしたいです」
不思議だ、少しだけ『今後のために』と小さく添えられた言葉が意味深に聞こえてしまった。
まあ、フィリアも小悪魔さんだから、天然かもしれないけどね。
その言葉に2人は俺に確認を取るので頷くと4人で折り紙を始めることになった。
ここで、同じように器用にこなすのは、フィリアとセシル。
真面目で素直なフィリアと、手先が器用なセシルは1度教えるとあっという間に覚えて作ってみせた。
最後に残ったのは、シャルティアだが……苦戦しつつも、なんとか完成させた。
「……シャルティア、遅い」
「ぐっ……!お前が早すぎるんだ!」
「……でも、シリウス様もフィリア様もペース的には同じ」
「まあまあ、こういうのは向き不向きがあるから、仕方ないよ。じゃあ、これの応用で俺のとっておきの1つを3人には見せようかな」
そうして注目を集めると、俺は小指より更に小さな紙片を正方形に整える。
ナイフで切れないので、丁寧に丁寧に……破れないように気を使いながら、なんとか完成させる。
「あの……もしかして、その小さいので作るのですか?」
3人の流石に無理じゃね?的な疑問の顔を塗り替えるために、俺は丁寧に鶴を折る。
小さくなっても、折り方の手順は変わらない。
ただ、これだけ薄くて小さいと破れやすく折りにくい。
子供の俺の手でさえそうなのだから、大人の時に普通にこれを成功させてた俺って実は凄くない?
まあ、誰も褒めてくれなかったけど。
俺はきっと、褒められて伸びる子なんだと思う。
……過酷な環境の方が伸びるとかいうことは決してないよ?
早死するだけのあの人生はもう真っ平なのだ。
そうして、3人が固唾を呑んで見守る中……遂に、最高傑作のミニチュア鶴が完成したのだった。
「これは……凄いですね」
「……うん、シリウス様器用」
「お見事です、シリウス様」
俺は今、天狗になりそうなのを必死で抑えていた。
パーティーで貴族からのお世辞を聞くのはうんざりだけど、身内からの気持ちいい称賛は嬉しすぎた。
「じゃあ、これはフィリアにあげるね」
「よろしいのですか?」
「まあね。また作ればいいし」
2人が欲しがるようなら、帰ってから作ればいいしね。
「うぅ……お2人が羨ましいです」
「……フィリア様もあと数年したら一緒に住める」
「そうですね……シリウス様、その時はよろしくお願いしますね」
何をかは分からないが、NOとフィリアに言うことは有り得ないので「分かった」と答えておく。
元々、NOと言えない人だろと言いたいんだろ?
いやね、前世のあれは強制だったから、逃げようがなかったのよ。
だから、今世は嫌なことは嫌とハッキリ言うつもりだ。
まあ、フィリア達からの頼みを断ることは多分ないけど……よっぽどのことがない限りはないはず。
その後は、他の覚えてる動物なども教えるが、ぴょんぴょん跳ねるカエルは割と評判が良かった。
色が無いのが残念だったが……まあ、遊びとしてはこんなもので丁度いいかな。
ちなみに後日、姪たちが折り紙を発見して俺が作らされることになるのだが……可愛い姪のためなので仕方ない。
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