閑話 シャルティアの主
私が冒険者になったのは15歳の時。
ごく普通の家庭に生まれた私だったが、私には幼い頃から夢があった。
それは、ただ一人の主を見つけること。
騎士として、一人の人に仕えて、その人に女としての自分も含めた全てを捧げる。
この話を最初にしたのは弟だった。
生意気盛りの弟は『お前みたいなガサツな女誰もいらないだろ』と生意気を言うので拳で黙らせた。
父にすると、『あー……まあ、頑張れ』と微妙な顔をされ、母は『普通に嫁いでちょうだい!』とお説教をされる始末。
理解はされなくてもいいと、15歳になってお見合いを持ちかけてくる母を振り切って冒険者になった。
本当は国で騎士になりたかったが、女性騎士というのはこの当時ハードルが高すぎだ。
私みたいな庶民がなれる職業ではなく、大抵は貴族のご令嬢が遊び感覚または、行き遅れを覚悟でやるような職だったのだ。
残ってるのは冒険者くらいだったので、私は割とすんなりなれる冒険者を選んだ。
私は、そこそこ背が高く、力もあった。
騎士といえば、剣だけど、それと同じくらい盾にも憧れがあったので、大盾メインの騎士になることにした。
仕事自体はそう難しくもなく、年々ランクは上がっていく。
ただ、どれだけパーティーを組もうと、理想の主を見つけることは出来なかった。
何度かAランクの冒険者とパーティーを組んだが、強いだけで惹かれるものは何も無い人達が多く、私の歳はランクと比例して上がっていく。
男性冒険者は、そんな私をからかったり、馬鹿にしたりするので、その時は制裁を下すのだが、それで男は益々遠ざかる。
別に、その程度の男は興味はないが……
「……シャルティアは理想が高すぎる」
つい最近、パーティーを組むようになったセシルは少し変わっていたが、不思議と馬は合った。
ただ、私としては別に理想が高いとは思ってない。
生涯尽くすのだから、当然だと思っていることだ。
しかし私がこう言うと、セシルは首を横に振って答える。
「……普通、ある程度妥協するもの。完璧な人なんて居ない。だから行き遅れる。それに、相手にも選ぶ権利がある」
確かに、言ってることも分からなくはない。
私ももう、20代後半になった。
焦る気持ちもあるが、理想や夢を易々と捨てることは出来ない。
でも、いつかは現れるはずと、そう思ってた時にあのお方は私の前に現れた。
それは、今のパーティーの4人で依頼を受けに冒険者ギルドに来た時だった。
何やら、ギルド内が騒がしいと思ったら、サンダータイガーの討伐依頼が出たという。
珍しい魔物だが、Aランク冒険者が勝手にやるだろうと思っていたら、どうやら今丁度居ないらしいと他の冒険者が話していた。
……嫌な予感しかしない。
そう思っていたら、馴染みの受付嬢からギルマスが呼んでると声をかけられた。
部屋へと向かうと、少しだけ妙な感じはしたが、予想通り要件はサンダータイガーの件だった。
その話を渋りつつ断ろうとアインが話してる時に――その方は唐突にその場に現れた。
ブラウンのサラサラな髪と、一見すると女の子のように見えるほどに整った顔立ち。
どこか気品がありつつも、優しげなオーラを纏うその方は、この領地の領主様にして、スレインド王国の第3王子、シリウス・スレインド様だったのだ。
しかも、彼の隣には聖獣と呼ばれるペガサスが控えており、その神々しさに思わず見蕩れてしまうのだった。
そんな彼と、ギルマスから、討伐の見届け役を任せられる。
前に、セシルと街を歩いていた時に、領主様が魔法を使っていたことは知っていた。
それが、素人目にも高難度だと分かったのは、知り合いの魔法使いとかかけ離れた圧倒的な実力によるものが大きかったが……それを知ってても、思わず私は反対していた。
いくら領主様が強くても、子供だけを戦わせるなんて非常識すぎると。
そんな私をセシルが窘めて、ギルマスの提案に一先ず納得する。
そして、自己紹介の後に、私とセシルは準備のために2人で出ていったアインとクレイとは別行動を取っていた。
領主である、シリウス様のことを知りたかった私と、何かを期待するようにシリウス様の元に向かうセシル。
その私達の願いは想定以上の結果をもたらしてくれた。
話していて分かったのは、彼が私の求める理想の主に近しいということだ。
優しく、その力を正しく使い、話していて安心する――そんな人。
ただ、領主様の年齢は8歳。
対して私は、26歳になったばかり。
年齢的にも親子と言われてもおかしくない年齢差だ。
そんなことを悩む私に、彼は思わぬことを言ってくれた。
『好きになったら年齢なんて関係ない』――と。
その言葉に私は過剰に意識してしまう。
そんな私とは対象的に、彼に目を癒して貰ったセシルは積極的に彼にアプローチするようになった。
どうやら、セシルの抱えてた闇を晴らしたのは領主様にセシルは心を惹かれたらしい。
私は、意識してしまって、顔を見るのも難しかった。
それに……女らしくない私に魅力があるのかとか、今更になって自信がなくなったのだ。
我ながら情けない。
馬車の中では、どこからか現れた、もふもふした小さなぬいぐるみみたいな生き物に癒されつつ、そんな自分を不甲斐なく思っていた。
そして、サンダータイガーの所に着くと、シリウス様は自ら倒すと言い始めたのだ。
てっきり、ペガサスがやると思っていたので驚いていると、セシルは冷静に足でまといである自分たちを守りながら戦えるかと聞いていた。
そう、悲しいことに私では力不足。
でも、シリウス様は可能だと笑みを浮かべていた。
――なら、少しでも近くにいたい。
気づけば、私も立候補していた。
アインやクレイはそれを信じられなさそうに見ていたが、シリウス様の近くでその実力を見てから、余裕という言葉も頷けた。
余力を残しながらも、サンダータイガーと対峙すらシリウス様。
私とセシルは、シリウス様の魔力壁に守られていたが、不意に後ろから接近してくる気配を感じて反射的に盾を構えていた。
驚いたことに、後ろから現れたのはもう1頭のサンダータイガー。
シリウス様の魔力壁が無ければ、受けきれてなかったと分かるほどに強力な一撃に驚きつつも、なんとか追撃してくるサンダータイガーに盾を構える。
――流石に難しいか。
先程の一撃ですら、シリウス様の魔力壁が無ければ危うかった。
しかも、この盾では雷を打ち消せるか分からなかった。
死を覚悟しつつ、せめてセシルだけは守ろうとしていた私だったが、そんな私は突然にシリウス様に横抱きにされて、死の危機から脱した。
そう――私は、生まれて初めてお姫様抱っこされたのだ。
慌てる私に、シリウス様は軽いねと笑ってくれた。
そんなこと初めて言われたと思いながら、私はガサツな女らしくない年増は嫌いかとこんな状況で思わず聞いてしまった。
そんな私に、シリウス様は『シャルティアみたいな人は好きだよ』と言ってくれた。
その瞬間に、分かってしまった。
この人こそ――私が仕えたい主であると。
その後のサンダータイガーとの戦いはシリウス様の圧勝で終わり、お姫様抱っこされて羨んでいたセシルに同じことをしてあげていた。
あの体で、私やセシルを軽々と抱える……魔法なのだろうか?
だが、それよりも私は買い物の時に言ってた、『私みたいな騎士が欲しい』という台詞の真偽を確かめていた。
それが事実だと分かって、私は自分から申し込んでいた。
私の主になってください――と。
少し驚きながら、笑顔で頷くシリウス様。
セシルも、側に居たいとシリウス様にお願いしていた。
やっぱり彼女とは不思議な縁があるのかもしれない。
シャルティア、26歳――運命の出会いを果たした瞬間が正にこの時だったのだった。
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