第24話 卵焼き

卵を使った料理の定番と言えば?


そう!卵焼きです!


あ、ゆで卵とか、スクランブルエッグとか、目玉焼きは既にこの世界でもあるので無しで。


そんな卵激戦区 (俺の中では) の中で、何故かまだない卵焼き。


まあ、卵を巻いて食べようとか思いつく人居たら天才だよね。


俺なんて、教わらなければ知らなかっただろうし。


残念なことに、朝は卵焼きを食べたいと最初の前世で、何十、何百と作らされて俺のレベルは卵焼きマスターと言っても過言でないレベルになってしまったが、仕方ない。


ただ、普通の卵焼きは実は俺はあまり好きではない。


美味しいとは思うけど、何となく砂糖を入れた甘めの卵焼きの方が美味しいと思うんだ。


子供舌って言いたいかもだけど、少しでも栄養を、カロリーを摂ろうと俺なりに必死だったことは付け加えておく。


そんな悲しい過去はさておき、数日前に発注しておいた四角いフライパンが遂に完成して俺の元に届いたのだ。


普通のフライパンで作るのはそこそこ大変だが、出来ないこともない。


ただ、どうせなら楽を追求しないと。


そんな訳で、微々たる額のお金を回すことにして、届いたフライパンを持って厨房へと向かう。


俺が厨房に行くのを見た使用人達は、きっとまた何か作るのだろうと思って見送ってくれている。


そして、厨房に俺が現れると料理人達の表情が輝くのだから不思議だ。


「シリウス様!」


中でも、料理長のゼフスの輝きは半端なかった。


まあ、知らない料理を毎度毎度作ってれば、こういう期待も自然になるのだろう。


英雄の前世なんかは、これが負のスパイラルとなって俺を苦しめたものだ。


英雄なんだから、救って当たり前。


国に、民に全てを捧げろ。


自分なんて捨ててしまえ。


そんな、声が当たり前なのだから、ブラック企業も真っ青だろう。


いや、最初の前世も酷かったけどさ。


あっちは、残業が全てサービス残業に変わり、休みは『何それ美味しいの?』状態。


借金の額が額だけに、減額もなく、むしろ働けば働くほど給料が減ってるマジック。


凄いだろ?


最後の頃なんか、朧気だけど、一桁の数字が見えた時は本気で泣いたよね。


1ヶ月フルで働いて、残業して、世間一般のバイト以下の額ってなかなか泣ける。


そのくらい末期だと、逃げる気力なんてなくて、動かない身体を無理やり動かして、記憶が所々欠落してるようになるんだぜ?


……うん、よそう。


あれは過去、俺は今と未来に生きるのだ。


「ゼフス、厨房いいかな?」

「勿論です!本日は何を作るのですか?」

「卵焼きだよ」

「卵焼き……その変わったフライパンでやるんですか?」

「まあね」


とりあえずやってみるのが早いだろう。


そう思って卵をといてから、砂糖を少し入れてフライパンで焼く。


薄く巻いてく工程は、最初はマジでどうやってるのか謎すぎたが、慣れれば大したことはない。


「なるほど、卵をこのように……」

「少しコツがいるけど、ゼフスなら出来るでしょ?」


何しろ、少し教えただけで、再現出来るくらいの高いレベルの料理人だし。


きっと、彼のような人のことを天才と言うのだろう。


兄様や姉様もその類だとは思うけど、料理においては、俺はゼフス以上の料理人を今のところ知らない。


まあ、王族の料理を作る、国で最高の料理人達のトップである料理長なのだから、当たり前かもしれないが……領地に行くことになったら、彼を引き抜けないかなぁ……無理か。


父様や母様や兄様が離さないか。


家族の食の大事な柱を奪うことは出来ないし、したくない。


俺は俺で、使用人の確保も、早めにしないとね。


フィリアの家からも、何人かはフィリア付きのメイドさんとか来てくれそうではあるけど、基本的には俺の領地での使用人は俺が用意しないとダメだろう。


家族の伝手で、ある程度の確保は出来るだろうが、最終的には俺が気に入った人を雇うべきだろうしね。


そうして、最後に皿の上に卵焼きを乗せれば……はい、完成!


四角い卵焼きが、そこに誕生した。


うんうん、いいね。


箸がないで、フォークで分けて1口。


程よい甘さが心地よく、柔らかく温かい卵が絶品だった。


普通の卵焼きなら、大根おろしと醤油とかあれば美味しいかな?


まあ、醤油はまだ手に入ってないし、そのうちだな。


俺としては、砂糖を使った卵焼きがベストなので、大満足だ。


「あら、シリウス。また何か作ったの?」


隣でゼフスが、真似して作り始めてるのを横めに試食していると、珍しいことに母様が厨房に顔を出した。


仕事は大丈夫なのだろうか?


「卵焼きですよ、母様」

「卵焼き?その四角いの卵の料理なのかしら?」

「ええ、母様もよければどうですか?」

「そうね、じゃあ、いただくわ」


俺作の卵焼きを母様に献上すると、母様は上品に口元を隠して食べる。


「まあ、美味しいわね」

「なら、良かったです」

「これも、メニューに追加するべきかしら……うん、そうしましょう」


決断が早い母様ですこと。


まあ、慣れれば手軽に作れるし、美味しいし、俺の懐に入るお金が増えるし悪いことはないか。










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