第3王子はスローライフをご所望

yui/サウスのサウス

第1話 二度目の転生

異世界への転生。


誰もが憧れるそれだが、創作物のように素敵な展開が無いと知ったのは、実際に転生してみた後でのことだった。


最初の人生は、とある旅館で働く社畜だった。


住み込みで朝から晩まで、親の借金の返済に勤しむ毎日。


1年を通して休みは1回あればいい方で、睡眠時間は平均3時間。


無理矢理笑顔を貼りつけて接客をしていたかと思えば、何故か厨房で料理の手伝いをしたり、従業員の賄いを作らされたり、フロント、料理の提供、布団引きに、片付け、お風呂の掃除と、その他雑用全てを残ってる時間はひたすらこなしていた。


また、旅館の場所は山の中にあり、車が無いと移動が困難な場所なのだが、逃げようとすら思わないほど俺は心身ともに追い詰められていた。


あれはもう、奴隷と言っても過言ではないだろう。


興味もない山菜や花や樹の名前を覚えさせられ、専門じゃないのに昼間は登山のガイドをしたり、夜は望遠鏡で星空を説明したりと……思い出すだけで辛くなるのが最初の人生だった。


まあ、当然ながらそんな無理をしたせいでそうそうに過労死してのだが……そして、何の準備もなく俺は異世界へと転生させられた。


生まれ変わったのは、とある貧乏な家庭だった。


幸いにも、魔法使いとしての素質があり、剣術も師匠と呼べる人に出会ったお陰で職には困らなかったが……うっかり魔王を倒したせいで英雄となってしまったのが良くなかった。


国へと仕えることになり、ここでも貴重な魔法使いとして、英雄としてこき使われて俺には安息の時は無かった。


特に、転移の魔法が使えるのがバレてから容赦なくこき使われて、大変だった。


褒美として結婚させられた姫もワガママで、気が強くて俺には安らぎというものはとにかく縁遠かった。


これで美少女だったなら、キーキー五月蝿くても多少耐えられただろう。


だが、残念なことに、俺の嫁となったその姫はダルマのような丸々とした、横に恰幅のいい姫様だった。


初夜で心が折れたのは俺のせいでは無いとだけ言っておく。


別に、これが好きな人なら体型や容姿はそこまで気にしないだろう。


俺としては、中身が癒し系ないし、いい人なら気にしない。


だが、俺の血のにじむような努力のお陰で入る金は、湯水のように無駄遣いされて、挙句に他の男に貢いでいたのだから、笑えない。


おまけに、『この私が妻ということに感謝なさい!』という、自意識過剰なセリフをドヤ顔で言われれば嫌にもなる。


ツンデレさんならまあ、可愛いものだが、心の底からそんなこと言われたら誰だって呆れてしまうだろう。


生まれてきた子供も俺には似てなかったのはまあ、予想通りだったが、俺としては子供だけはオアシスだと思ってたんだ。


でも、浮気を隠しもしない姫さんが子供を洗脳するように俺を毛嫌いするように仕向けてきたのには頭を抱えたくなった。


まあ、他人の子だろうと、形式上は俺の子だし大切にしたかったが、浮気相手の男に笑顔で『お父さん』と呼んで、俺には『おっさん』と呼ぶのを聞けば誰だって嫌になる。


器が小さいかもしれないが、俺には味方は居ないのだろうとしみじみ思った。


そうして、仕事にプライベートに散々だったからか、心労も溜まって俺はこの世界でも早くに亡くなってしまった。


「神様……休みを下さい……」


そんな訳で、俺は現在涙ながらに女神様に懇願していた。


意識がフェードアウトして、二度目の死を自覚した後で、唐突に謎の空間に出た俺は、女神様を名乗る美しい女性に恥も外聞もなく泣きついていた。


「えーっと……よしよし」


余りにも不憫に思われたのか、慰められるが、久しぶりに人の優しさに触れた気がした。


人じゃなくて女神様だけど……


「と、とりあえず、事情は把握してます。実はアナタの最初の転生の担当がミスしてああなったのですが、今度は私がきちんと休める人生を御提供しますのでご安心を!」


なんとも優しい女神様だ。


信仰心など微塵も無かったが、今日から俺はこの人を信仰しようと密かに決めるのだった。


俺を安心させるためか、女神様は転生先の情報も教えてくれた。


転生先は、前の世界とは少し違うが、似たような異世界。


スレインド王国という国の第3王子に俺は転生するらしい。


なお、この転生は元は生まれないはずの第3王子という存在になるので、乗っ取りとかそういう心配は要らないらしい。


乗っ取りだと、その魂を移す場所を探すのが大変だと教えてくれた。


そして、こちらの不手際ということで、女神様は前の世界と同じように魔法を全属性使えるようにしてくれるそうだ。


身体的スペックは生まれ変わりなので、継ぐことは出来ないが、魔法や技術、知識に関しては問題ないとのこと。


本当に優しくて美人で惚れそうだよ。


俺の初恋は女神様だな。


恥ずかしながら、日本でも異世界でも初恋なんて甘酸っぱい暇はなく、周りもオバサンが多くて……英雄だった頃は確かに多少美少女と会うこともあったが、皆俺の英雄の愛人を目指すギラギラした感じでそんな甘酸っぱい雰囲気は無かったよね。


そんな訳で、俺は女神様に少し癒されて、二度目の転生をするのだった。







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